その横顔。
 伏せられた目。
 手を伸ばすと危ないと言われた。
 けれども、それは邪険にしたわけではなく。
 ああ、綺麗な笑み。





 所有宣言





 「針を使っているのだから」
 そう言ってルキアはまた運針を開始する。
 優雅な運びであっという間に縫われていくのは、一護がフェンスに引っ掛けて破いてしまった制服のシャツ。


 一護はさすがに目立つか、と放課後の教室に戻ってきたが、やはり雨竜は帰宅した後だった。残っていたのは数人の女子と、彼女らに囲まれていたルキアだけ。
 不思議なことに一護が現れると、ルキアを置いて意味深な笑顔でさっさと帰ってしまったのだ。

 事の次第を説明すると、ルキアはロッカーから裁縫セットを持ってきた。家庭科で使う物で、全員が持っているものだからもちろん一護も持っているのだが、自分で縫えるほどの技術はない。
 ルキアは針と糸を取り出すと、一護からシャツを受け取った。

 そういうわけで、一護はシャツの下に着ていたティーシャツでいつもの席に座っていたのだ。
 ルキアの隣に。





 「上手いもんだな」
 大きく破れていた箇所は、すっきりと塞がっている。
 あの目の当てられない料理や絵のようになるのかと散々反対した挙句に半ば取り上げられるようにして一護の手を離れたシャツは、見違える状態になって手渡された。

 「着る物を自分で調達していた時代は長かったからな。着物くらいなら今でも仕立てられると思う。洋服を縫うのは慣れないが、随分細かく縫ってあるのだな」
 大真面目に言うので、一護が苦笑する。
 「これは機械で縫ってんだよ。ミシンって言ってさ。家に帰ったら見せてやるよ」
 「本当か。機械で縫うのか?」
 興味津々な様子のルキアに、一護はシャツに目を落とした。

 「あのさ、一つだけ」
 「何だ?」
 「糸、白がないんなら言え」
 「いや、白糸はある」
 ほら、とルキアは糸巻きを見せた。
 なぜ白を使わないんだと出かかった言葉を飲み込んで、一護は細かい縫い目に真っ赤が覗くシャツを羽織った。





 「そういえばさ、さっき何話してたんだ?」
 結局二人並んでの帰宅となり、途切れない会話の途中に一護が尋ねた。
 「?」
 首を傾げたルキアに、一護はわざと視線をずらした。

 「ほら、クラスの女子と……」
 そこまで言って、やっと合点したようだ。
 「またアレだ。『朽木さんって黒崎君と付き合ってるの?』だ」
 面白がった表情で、ルキアはくすくすと笑う。

 「で、ちゃんと答えたのかよ」
 「『ちゃんと』? 『ちゃんと』ってどんな?」
 ルキアが意地悪く問う。
 次に尋ねられたらどう答えるかはすでに打ち合わせてあったのだ。
 「〜〜ったく。ちゃんとっつったらちゃんとだよ!」
 頭をがりがりとかいて、一護は顔を背ける。
 その様子に満足したのか、ルキアは笑みを深くする。
 「大体貴様が悪いのだぞ。証となるような物を何一つくれぬのだから」


 一番最初にプレゼントするのは指輪だと決めている一護はまだ結婚できる年ではない。ならば婚約指輪だと意気込んで、今はアルバイトに励んでいる。
 ルキアはそれに薄々気付きながら、知らない素振りを貫いているのだ。


 「ネックレスとかブレスレット一つで証拠になるかよ。で、結局言わなかったのかよ」
 一護は少しすねた言い方で、それがルキアはかわいく思えた。
 いじめ過ぎたか。
 「言ったよ。ちゃんと言った。そこに貴様が入ってきたのだ。あーあ。明日から難儀だな」
 言葉とは裏腹にとても嬉しそうな横顔に、一護は「どうってことねぇよ」と短く返し、その手を再び伸ばした。





END.