中央司令部内の廊下の一角でのことだった。

 「エルリック少佐、中央はいかがかな? 今度我輩の屋敷に招待しよう。姉上方が帰って来ておってな、ぜひ会ってみたいと」
 「ええ、随分慣れました。大佐がいろいろ考えてくれているから、特に困ったこともないし。前にハボック少尉が招いてもらったことがあるって聞きました。少佐の妹さんとお見合いだったんだとか」


 そこに二人の軍人が駆けて来る。
 「エルリック少佐ー。もう、捜しましたよー」
 「我々に断りなくいなくなるのは止めてください。心配しました」
 「あ、ごめん。少佐とばったり会ったものだから」


 「ロス少尉、ブロッシュ軍曹、エルリックの護衛役を押し付ける形になって申し訳ない」
 「いーえ、前の方がもっと大変でしたよ。今じゃこっそり抜け出すなんてことしませんしね」
 「ブロッシュ軍曹! あの時のことは反省してるって。恥ずかしいから昔のこと蒸し返すの止めてくださいよ」

 「護衛の件は一向に構いません。この子達に関わったのはごく少数の軍人だけですし」
 「また護衛をしてもらうならロス少尉とブロッシュ軍曹の他に適任はいないよ」
 「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」

 「感謝してます」





 コンフィデンス リエゾン  01
 




 長い廊下をまだ少年といえる軍人が歩いていた。彼に引き連られるように二人の軍人も同行していた。

 彼は真っ青な軍服に身を包んでいた。きびきびと足を動かすたびに、そのスカートの端から、ベルトに付けている銀色の鎖が見えた。彼の肩には三本のラインと一つの星があった。少佐の階級を示すものだった。
 そして、彼は蜂蜜色の髪を後ろで三つ編みにしていた。
 ただの軍属の身であった数年前から変わらない、『鋼の錬金術師』のトレードマークだった。





 呼ばれた執務室には少年の上司がいた。少年と同じく国家錬金術師で、二つ名は『焔』だった。
 彼は少年にとってかけがえのない人で、少年が正式に軍に入隊した理由の一つでもあったが、彼が気付くことはないだろう。

 『焔の錬金術師』ロイ・マスタングはいつもと変わらない調子で一束の資料を差し出した。少年を見つめる瞳は常に冷静だった。

 「エルリック少佐、次の任務だ。よろしく頼む」
 そう呼ばれた少年の心境は複雑で、苦笑するしかなかった。





 自分が軍に入ることを最後まで渋ったのはロイ・マスタングだった。
 後見人として絶対に認めないと、初めてこの大人と本気で喧嘩した。その時周りにいた彼の部下達は、多分二つのことに唖然としていた。

 一つは自分が軍の入隊を言い出すとは思っていなかったこと。
 一つは彼と自分があんなに派手に喧嘩するとは考えられなかったこと。

 売り言葉に買い言葉もあったのだ。あまりにも彼が頭ごなしにだめだと言い張るから。
 それでも数日の大喧嘩の末に、結局は彼が折れてくれたわけで。
 その後もアームストロング少佐に頼んで、馴染みのあるロス少尉とブロッシュ軍曹を護衛に付けてくれたり。自分が動きやすいように多少の無理を通してくれたり。

 昔から自分達兄弟には、くすぐったいくらいに甘いのだ。




 

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