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「健康体そのものなんだがなあ」
ノックス先生はそう言って、毎回首を捻ってカルテや検査結果とにらめっこをしている。 ボクはそれに苦笑し、兄さんは何も聞こえていないようにベッドの上に座ったまま、遠くを見ている。
コンフィデンス リエゾン 05
「何か変わったことは?」 「特には。あ、毎日の習慣については頷くことで意思を示せるようになりました」 「食事や睡眠で困ってることは?」 「今は時間通りにできるので、問題はないと思います」 「好き嫌いは?」 牛乳とか。 アルフォンスを窺いながらそう言うノックスに、首を振って苦笑した。エドワードは診察用のベッドに腰掛けたまま、床には着かない裸足の足を宙で遊ばせている。
「いえ。お腹が空いたか、いっぱいになったかは教えてくれますけど、他は何も」 「話はできるか?」 「こっちの言ってることは理解してるみたいです。でも、言葉は出ません」 「記憶喪失ってわけでもねぇし、知能指数も変わんねぇし、喋ろうと思えば喋れるはずなんだが。錬金術にも興味を示さねえしなぁ」 「両手を合わせさせてもだめですから、あの錬成方法は失われてしまったか、構築式が組み立てられない状態ではあるんだと思います」
「ま、一応普通の生活はできるってこったな」 ノックスは握っていたペンでカルテをとんとんと小突いた。
「……何ていうんでしょーね」 「何も言わなくていいのよ。私達はあの子達を見守っていればいいの。前もそうだったでしょ」 司令部に戻る車の中で呟いたブロッシュに、助手席に座っていたロスが答える。
笑うという表情はあるものの、目立った反応を示さなかった子供は、以前はよく笑い、よく怒り、そして何より強い子だった。 先ほど弟の問いかけに頷いたのが、『あれ』以来初めて見るその子供自身の意思表示だった。
「等価交換って何であんな残酷なんですか?」 「知らないわよ。でも、元に戻すってことを果たすために必要な代価だったんでしょう。全然納得できないけど」 「俺もですよ。……アルフォンス君はどうしてあんなに普通にしてられるんだろ。しかも軍に入るなんて」 「マスタング大佐がおっしゃってたわ。鋼の錬金術師の退役が許されない以上、すり変わってでもエドワード・エルリックを存在させなければならない。そうしなければ全てが公にされ、裁かれる。そう考えたのだろうって」
「見てるこっちが辛いですよ。エドワード君を守るためなら、少しくらい非合法でも構わない。か」 「アルフォンス君自身は死刑でも何でも受け入れるのでしょうけど、エドワード君がそうなるのは許せないのよ。自分達のしたことをちゃんと分かっているからこそ、エドワード君が受けてきた罰を知っているからこそなのよね」
「俺らが思っている以上に、元に戻すってことは大変なことだったのかもしれないですね。みんな「その程度で済んだのか」って顔してるんです」 「……身体のどこが欠けているわけでもないからでしょう」 「無くしたのは『心』ただ一つなんて……いえ、過ぎました」
ふと身じろぎをして窓の方を向いて片手でブロッシュ側の顔を半分覆ったロスに、ブロッシュは前だけを見つめる。
こういう時、気の利いた言葉の一つも浮かばないのが情けない。けれども、世界中探したって相応しい言葉などないと思う。だから、せめて自分の気持ちを素直に伝えたい。
「俺しかいない時くらい、頑張らないでください」
ロスが一瞬肩を震わせて、それから車内に小さくすすり泣きが響き始めた。 ブロッシュはなるべくゆっくりと車を司令部に向かわせた。
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