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コンフィデンス リエゾン 06
「俺ってハッピーエンドが好きなんスよね」
いつもはそこにいるはずの上司の姿はなくて、そのぽっかりと空いた席を眺めながら、ハボックはタバコの煙は吐き出した。 返事を期待しない言葉は口にしただけで、何とも言えない気持ちを浮き彫りにする。 部屋にはリザとハボックしかいない。だからこそ、ハボックは弱音とも言える発言をした。他の人間がいればこんなことは言わない。言えない。
「前の彼女と行った映画とか、好きな教訓とか。頑張ってる奴は途中どんなに酷い目に遭ってても、最後は努力が実ったり運がよかったりして歓喜ってヤツ。俺って体力しか自信なかったから運動はがむしゃらやって、それで誰かを守れるならいいかなーって士官学校に入って、頑張ったら受かった。学校行ってる間にブレダと意気投合して、いい奴だなーって思ってたら、今度はこれ以上ない上司と巡り逢って、その人からも信頼してもらえて。100パーセント信じられる仲間もいて、俺ってすっげー幸せ者じゃん」 淡々と喋るハボックは空の席に、力なく目を閉じた。
「俺、あいつらもそうなってくれるんだって、これっぽっちも疑わなかったんだ」
「望みがないわけじゃないわ」 ハボックには、リザの言葉は苦し紛れにしか聞こえなかった。 「そんなセリフ、無責任っスよ」 「それでも私は信じ続ける。アルフォンス君が諦めない限り。……そうでもしないと、立っていられないもの」 はっとして見ると、リザはいつも通り気丈に見つめてくる。 「私は諦めない。諦めたくない」
「俺もっスよ」
コンコンとドアをノックする音がして、二人は顔を見合わせた。 「患者さんかお客さんですか?」 「まさか。ここは診療所じゃねぇし、尋ねてくる客なんて……」 そこで再びノックがある。 ノックスが難儀そうに立ち上がって、ドアを開けた。
「珍しいな。お前さんが来るなんて」 何事かを話す声がして、アルフォンスが玄関を覗きに行く。 「マスタング大佐!」 アルフォンスが司令部内では決して見せない本来の笑顔で駆け寄る。 ロイは逡巡しながら、名を口にした。 「邪魔なら帰るが……」 「いえ、兄さんに会いに来てくれたんでしょう? 歓迎します。いいですよね、ノックス先生」 裏もなく満面の笑みで言われれば、断ることはできない。ノックスは渋々ながら頷いた。 アルフォンスは勝手知ったる様子でお湯を沸かす。
「しばらくここに住んでいたからな。アルフォンスがいなくなって食事を作るのが面倒でたまらん」 「そんなことまでさせていたのか」 「いいんですよ。あの時は条件に合った家が見つからなくて困っていたんです」 アルフォンスが紅茶を淹れながら答える。 テーブルに座っていたロイとノックスにカップを差し出すと、奥の部屋に姿を消した。
「様子は変わらねぇよ。ただ、普通の生活はできるようだ」 アルフォンスがいなくなった途端口にされた言葉に、ロイが一瞬動きを止めた。 「そうか」 呟きは落胆ではない。禁忌を犯し、真理を覗き、それで生きていること自体が奇跡なのだ。錬金術師であるロイはそれを誰よりも理解していた。 「何度も言うが、記憶喪失とかそんなんじゃない。だから治療法も分かんねぇし、このままなのか昔のようになるのかどうかも見当がつかない。だが、」 紅茶にも手を付けず、ノックスは言う。 「だが、お前らが諦めないのなら、俺も手を尽くす。……何でだろうな。アルフォンスがさ、あんだけ気ぃ張って頑張ってんのを間近で見てっと、俺も諦めきれないんだよ」 ノックスは苦笑する。 「感謝する」
「ってことで、あいつらの師匠っていう人の知恵も借りることにした。ダブリスって町へ行くってのはもう知ってるんだろ?」 「ああ、南部への滞在許可を出した」 市街の状況報告を課したのは、アルフォンスが等価交換を譲らなかったからだ。以前はエドワードがそうだった。 「俺ができるのはそんくらいだ」 肩をすくめたノックスに、ロイが眉を寄せた。
「しっかり支えてやってくれ」
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