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「そうか、今日だったか。菓子でも用意しておくか」 「誰のためにですか?」 「それはもちろん……」 「大佐、あの子達は」 その綺麗な顔がわずかに歪んだ。
01
次の瞬間、扉を開けて入ってきたのはハボックだった。 彼は妙な空気を読み取り、タバコを咥えたまま眉をひそめた。 「あれ、お取り込み中でしたか」 そのまま速やかに退出しようとするのをホークアイが止め、彼女自身が足早に出て行ってしまう。姿が見えなくなる直前、口元に手をやるのが見えた。
「大佐、何したんスか」 彼にしては珍しいほどに冷たさを含んだ声音。驚いて視線を向ければ、睨んでいると言ってもいいくらいの射るような瞳。 「……何って、私はただ。菓子でも用意しておくかと、」 「エルリック兄弟のためなんて言ったんじゃないでしょうね」 首を傾げながら肯定を返すと、いきなり胸倉を掴まれた。 「いい加減目ぇ覚ましてくださいよ!!」 殴られるかと思った。
その口から紡がれる馬鹿みたいな話。 「あいつら死んだんですよ! もうここには来ない! 人って死んだら二度と会えないんです!!」 「……何、を」 畳み掛けるようにぶつけられる嘘みたいな話。 「どうして認めようとしないんですか! 葬式だってしたじゃないっスか。あなたが、あいつらがまだ生きてるような口ぶりで話すたびに彼女が泣くんですよっ!!」
彼女というのがホークアイを指すことは何となく分かった。おそらく彼女は泣き顔を見られたくなくて部屋から出て行ったのだ。 『大佐、あの子達は』 その続きは何度も繰り返されている。確かに。 『あの子達は』 まるで誰か知らない人間のアルバムを開いているかのような感覚。 『あの子達は――』
何の冗談だ。今日は嘘をついて楽しむ日ではない。あれだって悪意のない嘘、笑えるような嘘でなければいけないと暗黙の了解があるではないか。 こんな、酷く痛い冗談。
いや。 ハボックは演技などできない。 嘘をつくという点では全くの能無し。エドワードよりも下手くそだ。だから方便も使いこなせず、女に愛想をつかされる。 では。 では、これは?
居たたまれなくなって、掴まれていた手を乱暴に振り払い、廊下に飛び出した。 どこか。どこかにいるはずだ。 彼らが死んだなどという馬鹿げた話を否定してくれる人間が。
中庭から声がした。 「……もう一年ですか」 「早いですね」 「まさかあいつらがなぁ」 何の話だ。 「エドワード君とアルフォンス君には僕らより先に死んでほしくありませんでした」 語尾が掠れて、鼻をすするような気配。 「泣くなよ曹長。つられるだろうが」
馬鹿な。何だこれは。 後ずさった途端、足の踏み場がなかった。運悪く階段があったようだ。 態勢を立て直せず、肝が浮く感覚。気持ちの悪い。
今日は十月の末だろう。どうして私を騙す必要があるんだ。
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