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痛い。痛い。苦しい。――助けて。も、やだ…
反実仮想 01
薄暗く、僅かな光しか届かない小さな部屋で縛られたまま、針が腕に刺さるのを見た。 間もなく視界が歪んで、何も分からなくなる。 薬のせいで息ができなくなって喘いでいるオレを嘲って、ひと笑いすると、白い服をまとった大人達は弛緩した身体を足蹴にして出て行く。
今回は酷かった。 まあ、暴れて抵抗したオレも悪いんだろうけれど、と他人事のように考える。そして、どうしてこんなことになっているのだろうと自嘲した。
こんな衛生も何もあったものじゃない牢屋のような部屋に理由も分からず隔離され続ければ、暴れたくもなる。自分の主張はただ一つ。 『元の生活に戻して』だ。 せっかく仲良くなったアルにだって会えないし、ドクターや研究員の人達と外で思いっきり遊びたい。
前みたいにみんなの前で錬成だってやって見せるし、何度だって試験や検査をする。ドクターはそれがオレの仕事なんだよって言ってたじゃん。 言われた通り何でもやったし、他の子が試験をしてたら、わがまま言わずに大人しく待ってたでしょ? みんなと一緒なら行儀よく食事もしたし、いい子だったでしょ? 病気でも何でもないのに、どうしてオレだけ一人にされるの? もうみんなキャッチボールしてくれないの? いろんなこと教えてくれないの? 本を読んでくれないの?
たまに大人が来れば、みんなと同じ服を着ているのに見たことのない人達で、見下したような目で見てくる。前はオレにもちゃんと名前があって、みんなそう呼んでくれたのに、今は名前を呼んでくれる人がいない。 『化け物』と、罵られ蔑まれる。 ここから出してと叫べば殴られて、無理矢理暴れれば蹴られて、気を失えばそのまま放置される。
ここ数日、与えられるのは水だけで、それすら這いずって犬のように舐めるしかない。
騒いだ時に殴られて、目の辺りが切れたのか、熱い。 確かめられないのはいつものように両手を合わせられないように別々に縛られているのと、身体を動かすだけの余力が残っていないからだ。身体を起こすこともできなくて、冷やりとする床に転がっている。
この建物の中だけで育ったも同然だったけれど、少なくともほんの少し前まではこんなふうではなかった。 他の子供と一緒に錬金術という技術を学んで、テストが行われれば誰が一番になるか競い合った。大抵一番だったのがアルフォンスで、仲良くなると彼は一つ年下で、孤児院からここに来たのだと教えてくれた。
月に数回錬金術の試験と身体検査を受ければ、この建物の敷地内から出ないという条件で自由になれた。ドクターは厳しかったけれど、研究員と呼ばれる人達は家族のように接してくれたし、一生懸命やれば褒められた。
いつからだろう。みんながオレを冷たい目で見るようになったのは。
右目が痛くてたまらない。 涙も出ないのに泣きそうになる。左足も痛みがあるけれど、比べ物にならないくらい。 足は折れたのかもと思った。動かそうとすればするほど強い痛みが走るので、無理に動かすのはやめた。
汚れた衣服は簡素な物。今は自分の血まで染み込んで、血液が腐敗した匂いがまとわりついている。 狭い視界にきらきらとしているのは自分の髪の毛だ。この部屋に閉じ込められるようになってから、一度も髪を切っていない。だから伸びてしまったのだ。 もちろん切りそろえることすらなかったので、肩よりは長くなった髪の長さはまちまちだった。
母さんの長くて柔らかだった髪はこんな色じゃなかったのに。
優しく抱き締めてくれた人は、もうこの世にいない。母さんが死んで身寄りがなくなったオレをここが引き取ったのだ。 ここで一番最初に教わったのが『等価交換』。 錬金術を勉強して、研究ってのに協力する代わりに、ここでの生活を約束される。寝床も食事も友達も心配しなくていい。
ずっとそうしてきたのに、どうしてオレは捨てられたんだろう。
床に転がったまま、そろそろ限界だと思う。このまま死にたくない、と今まで頑張ってきたけれど、もうそれすらどうでもいい。 楽になれるなら早く楽にして欲しい。頭が痛い。
――? 部屋が震えた。地震だろうか。 どうせなら建物ごと崩れてくれればいいのに。自分で死ぬ方法が分からないから。…人の声もする、気がする。いつもは何も聞こえないくらい静かなのに。
出血が多すぎるのか、頭を壁にぶつけたせいなのか、耳がよく聞こえない。それは意識が途切れかかっているためだとは思いつかなかった。
ひたりとくっついている床から、ゆっくりと足音が近付いてくるのが分かった。 薬が効いたか確かめにきたのだろうか。 抵抗するような気力はすでになくて、深みに落ちるように目を閉じた。
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