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反実仮想 04
次に目を覚ました時、オレはまだ白い部屋にいた。 窓から指す光がまぶしかった。
何もかもがおかしかった。
やはりまた人の気配がないことを確かめ、起き上がる。なぜか前よりは意識がすっきりしていた。 確実に調子がいい。あれだけ暴れたのに左腕に針痕が残るだけで、暴行を加えられた様子がない。
着ている服が違う……。
少し青みがかった白いゆったりした服。ボタンは付いていないけれど、前で合わせるタイプだ。紐を結んで止めるらしい。軽く、柔らかい。 足を寄せようとして、左足が白い固まりに覆われていることに気が付いた。 前の部屋では痛くて仕方がなかった、この部屋で抵抗に逃げようとした時、動かなかった左足だ。あの時は気付かなかった。膝下から足先まで固定しているそれは触ると硬くて、型に入れられているみたいだった。
今は痛みがない。かろうじて爪先が覗いている。 これは骨が折れた時の治療具だとは知っていたけれど、何という名前なのかまでは知らなかった。
視界の異変に手を当てる。右目が布のようなもので塞がれていた。 あんなに痛かったのに、今はもう何ともない。ほんの少し疼くだけだ。
今まで治療なんてしなかったのに……。
手首も拘束されてない。鎖も手錠も革のベルトもされてなかった。 部屋を見回しても、ベッド以外は何もない。こんなにいい所にいるのは、何だか場違いな気がして落ち着かなかった。
キィ、とドアが鳴って驚く。 青い服を着た女の人が立っていることを見とめて、胸を撫で下ろす。 鮮やかで真っ青なきちんとした服だった。何より、その人の両手には何もなかった。 オレのような金髪をまとめあげている。
「…………」 その人は僅かに驚いた顔をして、部屋に入ってくる様子がなかった。 首を傾げる。 その人は優しく微笑んで、ゆっくりと近付いてくる。 「目が覚めたのね。……私はリザ・ホークアイ。気分はどう?」
凛とした声。とても綺麗な人だ。見たことのない人。 「…………」 何が起こっているのだろう? 態度が今までと違いすぎる。とりあえず、おずおずと頷く。
今までの経験で、オレに危害を加えるつもりがあるのかどうかを判断する力はついていた。この人は大丈夫だろうと直感が言う。 リザさんは研究員の人と同じような接し方だった。
ベッドの陰に置かれていた椅子を寄せて、座る。 「言葉は、分かるわよね? 私の言っていること、分かる?」 こくりと頷くと、安心したように微笑した。 「声は出せる? あなたの名前を教えてくれないかしら」
嬉しかった。 化け物と呼ばない人がいる。名前を聞いてくれる人がいる。 「……エ、ド…ワード…」 久しぶりに出した声は掠れて、酷くいびつな物になった。それでも、声が出たことに少し安堵していた。
「エドワード君というの。教えてくれてありがとう。……今、あなたは何が起こっているのか分からなくて困っているかもしれない」 頷いて肯定を示す。
「あなたは怪我をしていて、だからここにいるの。これからいろんな人があなたに会いに来るけど、それはエドワード君の怪我を治すための人達で、あなたを傷つける人は一人もいないのよ。あなたが怖いと思うことはしないし、嫌だと思ったらそう言って。すぐにやめるようにするわ。信じてもらえるかしら?」 小首を傾げる姿に、恥ずかしくなりながらも頷いた。
「怪我がよくなってきたら何でも答えてあげるから、今はゆっくり休んで。何か欲しいものはある?」 促されて横になると、優しく囁かれた。
「……手」
「?」 自分の手を見つめるリザさんに、恐る恐る手を伸ばす。 初めて会った人にこんなことをするなんて、多分まだ何かの薬が効いているんだ。いつもの精神状態じゃ、誰かに触れたいなんて思えるはずがない。そう、きっとそうだ。 自分とは違う体温を感じて、指をぎゅっと握り締める。
「あったかい」
しばらくそうしていると眠気が襲ってきて、それに気付いたリザさんはちゃんと眠るまでここにいてくれると約束した。
なぜだか唐突に、もうあの生活は終わりで、殴られることも蹴られることもなくなったんだと理解した。
そうすると、怪我を治してくれたり普通の生活ができることの代価に、ここでは何をすればいいのだろう? リザさんに訊こうと思ったのに、口を開く前に眠ってしまった。
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