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賢者の石を探し求めて、アルの身体を取り戻そうと突っ走ってきたオレは、それが達成された時、どこに向かって歩き始めるのか全く考えていなかった。 アルが嬉しそうにちょこまかと動き回ってるのを見て、満足していた。
その後 02
オレは右腕のみを取り戻し、もう軍属でいる必要がなくなった。 数々の特権に目がくらんで狗を続けようとは思わなかった。
電話で近況を知らせると、ウィンリィは遠まわしにまだ軍属を続けるつもりがあるのか気にしているふうな口調だったし、元々狗でいるのは身体を取り戻すまで、という期限付きのようなものだった。 自分がかわいいわけではないけれど、やはりこれ以上軍に捕らわれているは危険だったし、ウィンリィやピナコばっちゃんにも心配をかけたくなかった。
何より、メリットよりデメリットの方がはるかに多かった。 それが分からないほど、子供じゃない。
大佐が仕事に復帰したらしいと聞いて、中央司令部に電話をした。 「……マスタング大佐に明日伺うと伝えてください」
「はい」 傷の多い国家錬金術師の証をぽん、と大佐の手に乗せる。 これが唯一の繋がりであることを忘れたかのように、そっけなく。
司令部の人たちはいい人ばかりだし、未練が全くない、と言ったら……多分、嘘になる。でも、もう狗でいる必要はなくなってしまった。これから先、大佐の「無能」っぷりが見られなくて寂しいと思っているのは、オレの方かもしれない。
全て、とはいかなかったが、「取り戻した」エドワードは、これから先どうするのかを全く考えていなかった。
どうすっかな、とぼやいたエドワードにロイが言った。 「『日常』を楽しんでみてはどうかね?」 意味が分からず「?」と返したエドワードに構わずに続ける。 「君はまだ……十七だったな。これから働くにしろ、軍属の経歴だけではな。ある程度の学歴はあった方がいろいろと役に立つ」 「………」 「『学校』に通ってみてはどうかと言っているのだよ。最終学歴はリゼンブールのエレメンタリー(スクール 小学校)だったかな。……まぁ、君達なら編入試験もパスできるだろう」
ロイがどんどん出してくる話をエドワードは理解し切れなくて、ただ目を丸くするだけだ。 「……君…たち?」 「そう、アルフォンスもな。本心を言えば、君達兄弟は大変興味深い。私個人の意見だが、将来に期待もしている。ここで足を止めてほしくはない。もちろん強制はしないがね」
「……」 一言も返せないでいるエドワードの心中を察してか、ロイは正面を向けていた身体を傾けて視線をずらした。 混乱しているエドワードを横目で窺う。 「これは一つの提案だ。断ってくれても構わない。……ただ、もし君達にその気があるのなら、学費は私が出そう。寮に入っても良いし、何なら私の家に居候してもいい」
金の眼は固まったままロイの顔に釘付けになっている。 当たり前だ。小指の先程も、存在していなかった選択肢なのだから。 ロイはふっと笑った。 「アルフォンスと二人で考えてみてくれ。すぐに発つ予定はないのだろう?」 退役の手続きにも少し時間がかかるしな、と会話はそこで途切れることになる。
エドワードがふと窓の外に視線をそらすと、ダークブルーのカーテンがすっかり空を覆っていた。
「その後いかがですか? エドワード君とアルフォンス君は」 ホークアイ中尉がふと思い出したように尋ねた。
退屈な軍議を終え、執務室に向かう廊下を歩いていたところだった。 怪我の治りは良好で、今はもうすたすたと違和感なく歩ける。 ロイは視線をまっすぐ前を向けたまま、わずかに笑みを浮かべて答える。リザはそれを数歩差を取った隣りで聴く。
「悪くはないと思うが。アルフォンスは元々あの性格だからな、周りと馴染むのが早いようだな。……問題ははが……いや、エドワードの方だ」 言葉の内容に合わず、何か笑いを堪えているような風に見えるのは気のせいかしら、とリザは思った。 「人との付き合い方は知っているものだと思っていましたが……」 「ああ、私もそう思っていた。実際はどうも違ったようだがね。……同世代に囲まれることには慣れないらしい」
リザも前を向き、ロイと同じ歩調で歩いていく。 「大人の中にいたのですから、仕方がないのではありませんか?」 「……しかし二、三違うとはいえ、精神年齢はエドワードの方が上かもしれないからな。どう接すればいいのか戸惑っている様子がこの上なく面白い。しかもそれを私に気取られないように振舞っている様もな」 ロイは何を思い出したのか、堪え切れずにくつくつと笑い出す。すれ違う下官達が、挨拶をしながら驚いた顔をする。
「楽しんでいるようですね」 「まあ…否定はしない」 会話を保ったまま、執務室まで着いた。 ロイがその扉を開こうとノブに手をかけた瞬間、見計らったようにリザが問う。 「嬉しいですか」
「……」 ロイは回そうとしていたノブをそのままに、一呼吸置いた。 「彼らを軍(ここ)に引き入れたのは、私だからな」 ぽつりとそれだけ言うと、ロイは気を取り直すように少し勢いを付けて、扉を開けた。
エドワードとアルフォンスが学校(スクール)に通い始めて、約二週間。 ロイが『提案』して三週間が過ぎようとしていた。 あの後、宿に戻ったエドワードがアルフォンスにそのまま話した。 それで一晩中話し合って、そうしようと決めた。
理由は三つ。 一つ目は、中央の学校に通うとなれば、とりあえずピナコばっちゃんやウィンリィが心配しなくてすむ。 二つ目は、確かに学歴は役に立つ、ということ。リゼンブールで一生暮らすのなら、あまり必要ないものだけど、多分そういうわけにはいかないだろう。 アルフォンスの三つ目は、年相応の生活を送ってみたい、で。 エドワードの三つ目は、興味のある分野の研究をしたい、だった。
退役申請中だったので一応電話で連絡を取り、二人はロイを訪ねると、話しの旨(むね)を伝えた。
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