「お帰りなさい。大佐」





 その後  04





 三人住んでもまったく窮屈でないロイの自宅の廊下をパタパタと駆けて来る。
 ロイは黒のコートを脱ぎながら、それに応じた。
 「ただいま。今日は何をしていたのかね? まあ、やりたいことはたくさんあるだろうからな」
 アルフォンス、とエドワードと同じくらいかほんの少し背の高い少年に視線を向ける。以前は見上げるようであったが、今は目線は下。少し見下ろすことになる。



 合格を知らされた兄弟は、次の日からロイの家に居候することになった。元々荷物らしい荷物はトランク一つしかなかったので、ほとんど身一つで来たも同然だった。
 だから、部屋を与えられてから数日たった今も、その室内は殺風景なままだ。

 日中、ロイが司令部にいる間は、二人は書庫か図書館にいる。昔のように何かを気負う必要もないので、アルフォンスはいろいろなジャンルのものを読み漁るようになった。
 それでも結局、二人で本に囲まれた生活という点では今も昔もさほど変わらないかもしれない。

 兄弟が来てからロイがまったく家事をしていない(元々あまりやっていなかったが)のは、二人が分担しているためだ。アルフォンスは元からきれい好きだったし、エドワードも居候させてもらっている代価ということで、家のことを受け持つことになった。



 学校は休みだから、午前中は兄さんと組み手。午後は書庫で本を読んでいました。
 そうアルフォンスが答えた。そこでもう一人の行方を問う。
 「……エドワードは……まだ書庫か」
 問う、というよりは半ば呆れて呟いたに近い。

 ロイが所有する書籍は資料として貴重なものもある。錬金術師として興味をそそられるのは分からなくもないが、何事も程度というものがある。そうでなくとも、エドワードの集中力と貪欲さは半端でないのだから。
 ダイニングの方からは香ばしい香りが漂ってくる。すでに温かい夕食が用意されているのだろう。
 「……声を掛けてこよう。せっかくの夕食が冷めてしまう」


 「もういるよ」
 書庫に通じる廊下の角から顔を出したのはエドワードだった。何の本を漁っていたのか、服や髪に綿ぼこりがくっついている。
 その状態でダイニングに入ろうとするから、アルフォンスに注意される。指摘されて初めて気付いたらしいエドワードは、玄関でパタパタとはらった。

 「もう少しのんびりしてもいいんじゃないのか、エドワード」
 ロイが言うと、エドワードは眉を寄せて怪訝な顔をした。
 「オレ、そんなに頑張ってないよ。来週から研究室入れるから資料集めてるだけ」
 大佐の書庫って、小さい図書館みたいだな、と言うとエドワードは腹減ったーとダイニングに姿を消す。ロイはそれを追いかけるアルフォンスの後に続く。はたから見れば親子、とまではいかないが、兄弟のようにも見えただろう。

 ほんの数ヶ月前には考えもつかなかった、穏やかで、やさしい日々だった。





 学校に通うようになり、アルフォンスは毎日、今日はクラスの子と遊んだ、新しい友達ができた、先生に褒められた、などその日にあったことを嬉しそうに話した。だから夕食はいつも和やかな雰囲気だ。
 よかったな。というエドワードはやはり兄の顔である。

 「エドワード。君の方は慣れたのか? アルフォンスは周りに馴染むのが早いから心配する必要はないが……」
 ちらりと見ると、エドワードがウィンナーにぶすりとフォークを突き立てた。
 「っ…何とかやってるよっ!」
 照れ隠しの投げやりな態度に、アルフォンスが苦笑する。

 リゼンブールならともかく、エドワードは他人に合わせようとすることがない。しかも飛び級によって十七歳にして、十九、二十歳の学生の中で勉強している。好奇の目もあるだろう。そのくらいの年頃にとって、一年、二年の差はかなり大きい。
 今までそれほど近い年齢の人間と毎日顔を合わせることなどなかったので、エドワードが変にぎくしゃくしているのは明らかだった。

 だいたい、とアルフォンスはロイのからかいに真っ赤になって言い返している兄に目をやった。

 「……余計なお世話だよっ!」
 「失礼な。せっかく私が楽しい学園生活を送るために恋の掟(ルール)を伝じゅ…」
 「っだから 黙れっっ!!」

 だいたい兄が素を見せる相手など、そうそういるわけがないのだ。





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