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兄弟はごく普通の生徒として学校に通っている。 途中入学の試験でとんでもない点数を叩き出したという噂は瞬く間に広まり、二人はその騒ぎに辟易した。
母親は死に、父親は行方不明。そこで、兄弟の才能を見出したある軍人が後見人になり、学校に通うことができるようになった。 その生い立ちに同情を寄せる人間はいたが、エルリック姓を名乗っても、つい最近辞めたという国家錬金術師と重ねる人間は一人もいなかった。
それは単にアルフォンスが鎧とは無関係の姿で、ごく普通の少年に見えたおかげである。
その後 07
「なあ、エルリックって君だろう」 大学の廊下で、爽やかに声をかけてきたのは背の高い茶髪の青年だった。隣りに眼鏡をかけた青年がもう一人いる。
エドワードは研究室に向かっていたので、他人のために足を止めるなどという思いやりもない。 「だったら何?」 物珍しげに声をかけられることにほとほと嫌気が差していた。
「あ、待てよ。僕らもフィズ教授の生徒なんだよ」 その言葉でエドワードが足を止めて振り返る。 「そういうことなら。……よろしく」 手を差し出されて、二人が顔を見合わせる。 「……変わってるな」 ぼそりと呟いたのが茶髪の方で、すかさず眼鏡の青年がばこりと頭を叩(はた)くなり、エドワードの手を握ってぶんぶんと振る。 「気にしないでくれ。こいつ思ったことが全部口に出るんだ……じゃなくて、あ、ああ。俺はケビン・カーペンター。今年で十九だ」 ほら、と言われて、茶髪の青年が名乗る。 「同じく今年で十九。ジェームズ・リー」 「あんたの苗字の方が変わってんじゃん」 「よく言われる」 エドワードはこの二人のやりとりを見ながら、どこかで見たことがあるような気がしていた。
「研究室に来るの初めてだよな?」 ジェームズがエドワードの隣りを歩きながら尋ねる。 「うん。半月は学校に慣れることを優先しろってテキスト中心の基礎的なものばっかりだった」 うんざり、とエドワードが答えたところで、研究室に到着した。
「はじめまして。エドワード・エルリックです。半月前に転入してきたばかりで、いろいろ迷惑かけるかもしれませんが、よろしくお願いします」 小学生でもあるまいし、と思いつつ、教授に自己紹介を催促されればやらないわけにもいかない。 「というわけで、今日から研究室に入ることになったエルリック君だ。皆も知っているだろうが、彼は十七歳だがとても優秀だ。君達も簡単に追い抜かれないように頑張るように」 はははと笑って、フィズ教授はエドワードに空いている席に座るよう促した。
「ところで、エドワードは何をやりたくてわざわざ飛び級までしたんだ? 一つ下の弟と高校の受験をするはずが、自主研究ができる大学の試験を受けさせてくれって頼み込んだって聞いたんだけど」 授業の後、図書室に向かうエドワードにジェームズとケビンがくっついてきた。 「大きな声じゃ言えねえが、フィズ教授って学会でも一目置かれてる存在だけど、専門の話になると見境なくて迷惑するんだぜ」 ケビンがはあ、と息を吐く。
「オレも似たようなもんだし。あの人クセルクセスの研究やってるだろ。第一人者だから申し分ないだろうって……その、後見人が」 「へえ、じゃあクセルクセス遺跡の研究をやりたいのか?」 「うーん。遺跡そのものじゃなくて、錬金術かな。一度あそこに行ったことがあって、錬金術が使われてたって確信できるものがあったから。それに、シン国の錬丹術も興味深いな。元は同じ技術らしいってシン国の人間に聞いたんだ」 あんた達は? とエドワードが訊く。 「僕は主に史実だな。今はアメストリス限定で調べているけど、大学院に進んだら隣国との繋がりも知りたいと思っているんだ」 「俺は遺跡の発掘と測量。クセルクセス遺跡には教授にくっついて行ったことがあるけど、あそこはすげーな。あれだけ栄えていて、一夜で滅ぶわけがねえ。クセルクセスにも興味があるけど、今のところは国内が行動範囲だな」
「結構普通なんだな」 ジェームズが感心したように言った。 「は?」 「もっと変人で傲慢で生意気な奴かと思っていた」 「お、おいっ」 エドワードが目を丸くする。明け透けな物言いに、ケビンが慌てている。 「もしくは、後見人だっていう軍人の遊びか。君は本当に勉強をしたいんだな」 「あ、当たり前だろ。軍人ったって、そんな暇じゃねえし。よくしてくれるよ」
「あの子じゃない? エルリック君って」 突然聞こえた声に、ケビンとジェームズが振り返る。 エドワードはまたか、といった様子で前方に視線を向けたままだ。 三、四人の女の子が駆け寄ってきて、二人の存在を無視してエドワードに話しかける。 「ねえ、十七歳ってほんと?」 「飛び級って、頭いいんだね」 「高校行ってないって聞いたんだけど、出身中学は?」 すっかり囲まれて、見ようによっては顔が引きつっているエドワードを、ケビンが引っ張り出す。 「悪いな。俺ら急いでんだ。また今度な」 女の子達の不平を聞き流して、二人はエドワードを図書室へ連れて行った。
「顔色悪いぞ」 「大丈夫か?」 頷くエドワードに、二人が苦笑する。 「わ、笑うなよ。……ああいうの、慣れてなくて。その、大人と喋るのには慣れてんだけど」 「大人って、後見人とか?」 「う、ん。そんな感じ」 「俺らとは喋ってんじゃん」 「研究内容とかならいいんだけど、自分のことってあんまり話したことないし…お、女の人って何言い出すか分かんなくて困る」 心持ち顔が赤くなっている。 ジェームズとケビンが呆れる。 「君、中学でもクラスに女子はいただろう?」 「あ、男子校とか?」
「行ってない」
「は?」 「だから、小学校の卒業前から教育機関にお世話になってないんだよ」 二人がびきりと固まる。しばらくの沈黙があって、ケビンが言う。 「……中学行ってねえの?」 「そう」 「じゃあ、今までは?」 「えっと、独学っていうのかな。あれは」 エドワードが首を傾げる。まさか国家錬金術師をしてました、なんて言えるはずがない。
「……天才だな」 ジェームズがぽつりと言った。
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