フィズ教授はエドワードがクセルクセス、錬丹術についての研究をしたいのだと話すと、にこにこと頷いた。


 クセルクセスについての詳細を記録した文献はほとんどない。何せ大昔の遺跡だ。加えて環境が厳しいため、わざわざ調査に行く人間もいない。
 しかし、ケビンが言ったようにフィズは以前クセルクセス遺跡の調査をしたことがある。砂漠のど真ん中まで運べる機材は少なく、大したことはできなかったとフィズは残念そうに言った。

 錬丹術との係わりは分からないが、その時の調査書を見せてもいいと言われ、身を乗り出したエドワードに、フィズがストップをかける。

 「『君達』錬金術師はこう言うそうだね。『等価交換』と」
 チッチ、と指を動かし、ウィンクする。
 はたから見れば茶目っ気のあるおっさんにしか見えない。
 けれどもエドワードにはその一言で、今夜怒鳴り散らすべき相手が決定した。



 「……オレ、まだ何も勉強してないんですけど」
 「そうだな。クセルクセスか錬丹術について。レポート用紙は好きなだけ使っていいよ」
 「……推論でも、突拍子のないものしか書けませんが」
 「いいよいいよ。どっぷり浸かっていると気付かないことはたくさんあるものだ」
 満面の笑みで言われても困る。

 「……教授が『個人的に』目を通されるんですよね」
 「もちろん! ああ、成績に加算してもいいよ」
 「……レポートを出せば調査書を見せていただけるんですね」
 挑むように尋ねるエドワードに、フィズが肯定を示す。

 「出来がよかったら、発禁になってしまったシンの錬金術書の訳本も付けてやろう! 龍脈についてかなり詳しく書かれているし、シンの思想を丁寧に説明しているから君にはぴったりだと思うが」
 持ってけ泥棒! と宣伝する八百屋のようなフィズに、エドワードは軽くめまいを覚えた。

 「絶対教授が満足するもの出しますからっ!」
 負けず嫌いは生来だ。ここまで言われれば引くわけにはいかない。遺跡の調査書も発禁本も読ませてもらうまでだ。
 ふつふつと沸きあがるものを堪えて退出する瞬間、背でフィズの呟きを聞く。
 「……マスタング君が言っていた通りだな」

 エドワードは思わずドアを加減なしに閉めてしまった。





 その後  08





 「てめえっ! どういうつもりだ!!」

 ロイは帰宅と同時に怒鳴りつけられた。理由は分かっていたので、特に驚きも弁解もせず、いつものように軽くあしらう。
 きーきー喚いている十七歳の脇を抜け、黒のコートを脱ぐ。

 「悪い話じゃないだろう。私は君に良かれと思って…」
 「っちっくしょー。はめられたー!」
 「人聞きの悪いことを言うな」
 ロイがコートを掛けている横で、エドワードが地団太を踏む。

 「大佐、ご飯冷めちゃうので気にしないでください。ほら兄さん、いつまでやってるの。結局その話受けてきたんでしょ」
 アルフォンスな的確な遮りで、二人は食卓についた。





 「何で教授があんたのこと知ってんだよ」
 ふてくされた態度でアルフォンス作の夕食を口に運んでいく。
 そのアルフォンスといえば、「大佐って軍部以外にも人脈あるんですね」と嫌味でも何でもなく素直に感心していた。

 「教授とは彼が図書館司書、私が士官学校の学生の時からの付き合いだ。私のことを気に入ってくれてね。持ち出し禁止の本を借りたり、読みたい本を優先的に購入してもらったりと世話になったんだ。しばらく前に知識欲が勝って大学に戻ったんだよ」
 ロイはさらりと言ってのけるが、これは由々しき事態だ。
 エドワードがまだ国家錬金術師だった頃に、ほいほいと危ない橋を渡って文献を取り寄せていたのはその頃からの延長線だったのかもしれない。


 「このところ少しばかり行き詰まっていたようでね。君なら面白い考察ができるんじゃないかと、君の大学入学を推薦してもらったのだよ」
 そこでエドワードが固まる。
 その隣でアルフォンスが大きく頷いた。
 「あぁ。そうですよね。
急に試験を受けて合格だなんて不思議だなって思ってたんです。しかも飛び級なんて。いくら試験の出来がよかったからって小学校も出てないんですから」
 てっきり大佐が職権乱用したのかと。
 そう笑って、もぐもぐと口を動かす。


 「じゃああんたは最初っから?」
 エドワードがわなわなと震え出す。
 「いや。私が動いたのは君が大学試験を受けた後からだ。フィズ教授の話はしたけれど、まさか今年受けるとは思っていなかったからね。けれども教授職が合格判定に係わることは知っていたので、彼に一声掛けたんだよ」
 今回は正当法だ。
 とロイはアルフォンスに笑って見せる。

 二人の様子に、エドワードはため息を吐いた。






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