好奇心むき出しの瞳が全て自分を映しているのだと思うと、恥ずかしいよりも何だか居たたまれなくなってくる。不躾な視線や悪意のある眼光にも気付いたが、それらは無視する。
 売られた喧嘩を買ってあげても時間の無駄だということは、山谷あった今までの人生でよくよく身に染みている。

 兄はそれらをいちいち買ってあげていたけれども。





 その後  番外編  下駄箱ラブレター。上級生から呼び出し。=青春!






 以前に学校に通っていなかったので転校ではないのだか、それをいちいち指摘していてはなぜ学校に行っていなかったかという理由から説明する破目になり、とても面倒だった。
 そういうわけで、アルフォンスは編入と転入がごちゃ混ぜにされていることを特に言及しなかった。
 加えて高校に編入して以来、アルフォンスは『今まで』とあまりにも違う人間に囲まれ、退屈する暇がなかった。
 そう、青春を謳歌していた。


 「はじめまして」
 やんわりとした口調と同居人直伝の微笑みでクラスの大半に好印象を持ってもらえたらしく、休み時間には早速友達が出来た。
 部活にも誘われ、いくつかの部を見学しに行った時も「ぜひうちの部に」と言われた。体力測定の結果は既にそれぞれの部活の顧問に伝わっているらしい……。

 転校早々に行われたテストもアルフォンスに味方した。
 張り出されたランキングの上位にはアルフォンスの名前が刻まれ、「アルフォンス・エルリック」「あの転校生」「スポーツ万能の」「天才」といったキーワードが校内を駆け巡った。
 これによって各教科の教師陣にも名前が知れ渡った。

 体育の授業で紅白戦をすればどちらにアルフォンスを入れるかでもめるし、校門近くに捨てられていた子猫を抱き上げていた姿が目撃されれば、次の日には噂好きの女子達の格好のネタにされた。
 その内にロッカーに手紙が差し入れられるようになり、アルフォンスは毎朝友人らにうらやましがられ、からかわれるようになった。





 だが、もちろん好かれるばかりではない。
 ちやほやされていると逆恨みをされることも少なくはなかった。
 それまではちょこちょこかわしていたのだけれど、さすがに今日は無理だった。

 アルフォンスが隣のクラスの女の子に呼び出され、まさに今告白されるというタイミングで、彼らは絡んできた。
 面白いものを見つけたように意地悪く笑い、女の子にまで侮辱の言葉を投げつけた。
 アルフォンスに庇われるように立っていた女の子は耳まで赤くし、恥ずかしさに目を潤ませる。

 こういうことをしてくる奴は大抵頭の悪い人間だ。
 今まで物理のトップにいた男子は、王座を取られるとすぐにアルフォンスと懇意になり、今では互いにいい影響を与え合っている。切磋琢磨というやつだ。
 それに比べて、とアルフォンスはため息をつく。
 勇気を振り絞って想いを告げようとしてくれていた女の子に向かって何たることを。今にも涙が零れてしまいそうな表情にした相手に怒りがわく。
 キレたと言ってもよかった。


 「用があるのはボクだろう。彼女まで侮辱するのは許さない」
 よく通る声にいつものふわりとした雰囲気はなかった。
 案の定数人の男子達は口汚く挑発し、裏庭へと誘う。アルフォンスは首肯し、女の子に謝った。
 「ごめん、昼休みは潰れちゃいそうだ」
 「い、いいえ。そんな。でも、あの、先生を呼んで……」
 このままでは多勢に無勢だ。呼び出されたアルフォンスを心配する女の子の言葉を遮り、アルフォンスはにこやかに笑った。

 女性との約束を反故にしてしまった場合、あるいはしてしまうことになった場合、どうしたらいいのかも同居人は親切に教えてくれていた。

 「大丈夫。あのさ、明日の放課後時間あるかな? 今日のお詫びにケーキでもおごらせてよ。学校の近くに新しく出来たお店、美味しいって評判でしょ」
 実は昨日、その店のケーキを兄が持ち帰ってきて食べたということは内緒だ。しかもケーキは兄が買ってきたわけではなく、研究室でご相伴に預かったものの残りを一番年下という理由で半ば押し付けられたということや、そのケーキが思いの他美味しかったからまた食べたいと思っていたなどということも内緒だ。
 ここでは言う必要がない。

 女の子が嬉しそうに頷いたのを見て、アルフォンスは裏庭へと向かった。
 こういう行為は勘違いの原因になるということに考えが及ばないのは、やはり色恋事に無縁の生活を送ってきたからとしか言いようがない。アルフォンスにしてみれば、フェミニストの同居人が言う『学園生活を楽しく送るための恋の掟』とやらを生真面目に実践しているに過ぎなかった。





 「口ほどにもない」
 アルフォンスはリーダー格であった男子の片腕の筋を痛めない程度に伸ばしつつ、呟いた。周りからも呻き声が上がっていたが、それは左の耳から右の耳へとすり抜けていく。

 「ん?」
 よく見れば、バッジがひとつ上の学年を指していた。
 普通は「やっちまったー」とか「うわぁどうしよう」とか思うものだが、肝の据わったアルフォンスではありえない。
 「あ、先輩だったんですね」
 それだけである。

 ふざけるなとかなめてんじゃねぇといったお決まりのセリフが苦し紛れに吐き出されていたけれど、気にも留めなかった。
 しばらくは腕に痺れが残るからねと声をかけ、立ち上がって服の埃を払った。

 「組み手なら付き合うから、暴力はだめだよ。数人掛かりも卑怯だし。あ、午後の授業に遅れないようにね」
 アルフォンスはあれだけの大立ち回りをやらかしたにも関わらず、息が切れている様子もなく、にこやかに立ち去った。

 その笑みに含まれた「今度は手加減しないよ」という意味を汲み取り、転がっていた男子達は今後一切この人気転校生に関わらないことを誓った。





 その後アルフォンスに柔術部から複数回に渡って勧誘が来たのは言うまでもない。





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