「だからね、ウィンリィにも来てほしいんだよ。もちろん予定がなければの話なんだけど。だってお得意さんとかいるでしょ……あ、ほんと? 大丈夫なの? でさ、できれば兄さんの機械鎧のメンテナンスも頼みたいんだ。あれ以来じっくり見てもらう暇もなかったから、どうもこの頃接続が上手くないみたいで。……ありがとう。工具一式持ってくるなら大変でしょ、ボク駅まで迎えに行くよ。……兄さん? 今部屋に篭り中。レポート書くのに必死だよ。いや、大学の。うん、じゃあね」





 その後  15






 「ウィンリィにか?」
 エドワードがいつの間にかリビングにいて、アルフォンスは言った。途中から聞いていたようだ。
 よほど疲れたのか、目元をしきりに擦っている。
 「うん。メンテナンスするから予定の日より二日くらい早く来るかもって。市内観光もしたいって言ってたし。あぁ、変わればよかったね。足の調子が悪いみたいだって言ったら心配してたよ」
 「勘弁しろよ。どうせ来た時に怒鳴られんだ。わざわざその機会を増やす必要ない」
 エドワードがげんなりとした様子で答えた。





 当初は機械鎧の調子が悪いなどと認めようともしなかったエドワードだったが、先日大学の友人二人に背負われて帰って来る破目になってからは誤魔化そうとしなくなった。
 機械鎧が帰り道突然動かなくなったために、歩くどころか自力で立つことも難しかったので手を借りざるを得なかったわけだが、接触が悪かったようなもので、翌日からはまた自在に動かせるようになった。

 応急処置だけでもとロイは市内の機械鎧技師の所へ行くよう提案したが、エドワードは作り手以外に触れさせたくないのか渋った。
 結局、入学祝の予定日もそう遠くないので、ロイとアルフォンスは無理強いしなかった。まぁ、シメるのはあの恐ろしい製作者が適任だと思わなかったこともない。





 「ボクは学校帰りに駅に直行するね。兄さんも……って訳にはいかないか」
 カレンダーを見て、アルフォンスが気付く。
 「悪ぃ。その日レポートの提出期限日」
 「そうだったね。時間ぎりぎりまで粘るんでしょ」
 報告書を出す時も決まってそうだったので、すでに勝手を知っている。

 「列車なんてそうそう時間通りに着かないだろうし追い駆けるよ。夕食の買出しもするんだろ?」
 「だったら市で待ち合わせようよ。その方が確実」
 「りょーかい。オレ風呂入ったら寝るわ。明日は休みだから遅くまで寝てる。大佐が帰ってきたら言っといてくれ」
 欠伸をしながら出て行くエドワードに、アルフォンスが呆れる。
 「分かった。兄さん、湯船で寝ないようにね」



 一人リビングに残されたアルフォンスはふと時計を見上げた。
 時刻は九時を過ぎている。夕食を二人だけで済ますのも今夜だけに限ったことではない。最近は毎日そうだ。
 「司令部は今夜も忙しいのかな」

 司令部と憲兵組織の一部による見回り強化が功を奏したのか、通り魔事件はなりを潜めていた。しかし、犯人を捕らえられないことには事件は解決といえない。
 元々他の者が容疑者一人上げられなかったことから、ロイに押し付けられた事件だ。何としても解決しなければ、そちらを棚上げにしてロイが詰(なじ)られるのは目に見えている。

 アルフォンスもエドワードも事件については新聞の情報くらいしかない。ロイは全く口を割らないし、街で昔の面々にばったり出くわしても同様で、すぐに祝賀会の話にすり替えられてしまう。
 だから容疑者の強制捕獲の作戦が練られていることも、市民同様二人の兄弟も知らなかったのである。











 「配置、割り当て、経路……問題ないな」
 「ぬかりありません」
 リザが答え、ロイは作戦会議を閉める。


 執務室に戻った途端、タバコに火をつけたハボックがぼやく。
 「何でまた祝賀会の二日前に突入なんスか」
 「仕方がないだろう。祝賀会までには片付けておきたいし、逃走を計ろうとしている動きがあるからさっさと捕まえるに越したことはない」
 「それにしても、殺人鬼でもないのにこんなに大掛かりなことになるとは思いませんでしたね」
 「そうだな。憲兵隊の奴らまでやけに志気が高まってるみたいだし」

 「みんな祝賀会に出たがっていましたから。事件が早く一段落すればいいと思っているのよ」
 さらりと言ったリザに視線が集中する。
 「中尉……みんな、とは一体?」
 リザは視線をものともせずに受け答える。
 「おそらく司令部中だと思います。兄弟と関わりのあった人をお誘いしたら、アームストロング少佐がそういうことは大勢で祝うのがよいと触れ回っているようでしたから」

 「し、しかし彼は憲兵達とはさほど親しくないだろう」
 「それは多分ブロッシュ軍曹だと思います」
 「私はこの間軍法会議所に行った時に真偽を尋ねられました」
 「そちらはシェスカさんでしょう」
 「僕は機械の調子が悪いってテレフォンオフィスに呼ばれた時に……」
 「ロス少尉の親しい方がいるようですから」


 男達は少しばかりの沈黙で何とか立ち直ったのだった。





next