アルフォンスへ

 オレはこちらでも相変わらずの生活です。図書館入り浸りの活字中毒者。あーでも最近は実験室にいる方が多いかも。こっちの世界って便利なようで不便で、でもあっちの世界じゃ思いつかないような技術や発想がたくさんある。
 お前の方は? ちゃんと食わせてもらってるか? 遠慮なんてするなよ。
 それじゃ、近々ルーマニアに戻ります。

                                 エドワード・エルリック






 シャンバラを征く者  便





 親愛なるエドワードへ

 君がちゃんと生活してるかどうかの方が心配だよ。熱中できるものができたのは嬉しいけれど、食事と睡眠はちゃんと摂ってよ。
 ボクは楽しく生活しているよ。マスタング助教授とも上手くやってるし。そうだ。一つ発見。あの人は料理が全くだめなんだ。もうびっくり。
 だから帰って来た時は、ロックベルさんの店で夕食を食べようよ。楽しみにしています。
                                アルフォンス・ハイデリヒ





 すっかり折り癖のついた手紙を丁寧にたたみ、エドワードは速度を落とし始めた汽車から外を眺める。トランシルヴァニアを離れていたのはほんの少しの間だから、街並みもさほど変わらない。
 空は夕闇が迫っている。駅に着くと大きめのトランクを抱えたまま、記憶を頼りに一軒の店を探した。



 「いらっしゃい」
 「こんばんは」
 店内を見回すと、アルフォンスが手を振っていた。その向かいにはマスタングとホークアイがいる。
 「エド、こっちこっち」
 応じて席に着くと、マスタングがトランクに目をやった。
 「何だ。駅から直接来たのか? 言えば迎えに行ったのに」
 「あら、じゃあホーエンハイム博士にはまだ挨拶してないの?」
 困惑したホークアイに、エドワードは苦虫を噛み潰したような顔をする。
 「いいんだよ。どうせ二、三日は世話になるんだ。嫌でも顔合わせることになる」
 そう言いつつ、とげとげしい感じはしない。

 「博士にも手紙出しなよ。ボク知らなくて、この間は本当気まずかったんだから」
 アルフォンスが必死でフォローする様子が目に浮かぶようだ。エドワードは肩をすくめた。
 「お前の方こそどうなんだよ。そうだ、あんた料理できないんだってな」
 エドワードがにたりと笑う。マスタングは一瞬たじろいで、アルフォンスを見る。
 「君は手紙に何を書いているんだ。全く、」

 「でもさ、あんたがアルフォンスの後見人になるなんて思わなかったよ」

 「……一度でもあんなことがあってはな。養子縁組を切ることも考えたが、それはアルフォンスが承知しなかったし、学生のうちは後ろ盾があった方がいい」
 エドワードは少し驚いた。てっきりエッカルトとは縁が切れているものだと思っていた。
 「お前人が善すぎ」
 「エド、そんなんじゃないよ。夫人からの縁組解消の話はなかったし、あの後「もしよければこれからも」って。ただ、ボクに関する実質的権限はマスタング助教授に移ったんだ」



 そんなことを話しているうちに、料理が運ばれてくる。どうやらエドワードが着く直前に頼んでいたようだ。
 「お待たせしました」


 「エドワード君、一人暮らしは慣れた?」
 「うん。人間ってやればできるもんだなって実感。もしこっちに戻ってくることになっても、親父とは別に暮らせそう」
 「エドワード、そんなこと言うものじゃないよ。親孝行はできるうちにしておきなさい」
 「はいはい」
 大げさに、そしてしぶしぶといったふうにエドワードが返事をする。

 「友達とかできた?」
 アルフォンスがパンを千切りながら尋ねる。
 「んーまあまあ。やっぱり年上が多いから友達って言っていいのか分からないけど」
 「上手くいっているようで何よりね」
 ホークアイが微笑んだ。

 「オレ、多分どこに行ったって『ここが一番だ』って思えるよ。この世界がシャンバラだって」

 シャンバラの意味を知っているアルフォンスとマスタングは呆気に取られた表情をし、そして笑った。
 「この世界が楽園か。本当に君は面白い人間だな。羨ましいよ」
 「うっせー。オレはここで生きてるんだ。そう思ったっておかしくないだろ」
 「なるほど」
 真面目に納得しているようなマスタングの素振りが、本当はからかっていると示していて、エドワードが腰を上げる。

 「エド、落ち着いてっ」
 「食事中よ」
 アルフォンスとホークアイに止められる。



 一際にぎやかなテーブルに、店のオーナーである老婆とその孫娘は顔を見合わせて笑った。



 

END.
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。