いつの日も笑顔で  ライブラリー 01





 「ああ、エドワード君ちょうどいい所に」

 ホームルームが終わった途端に図書室に向かったエドワードは、熱烈な歓迎を受けた。カウンターからシェスカが身を乗り出している。
 エドワードは毎日のように図書室を利用するので、図書委員達にすっかり顔を覚えられている。中でもカウンター当番を一番多く受け持っているシェスカにはよく声を掛けられていた。

 シェスカの手招きに、エドワードは返却する本を取り出しながらカウンターに寄りかかった。
 「あ、新しい本入った?」
 「残念。あれは来週届くってファルマン先生が」
 エドワードは授業での面識はなかったけれど、委員会担当なので図書室ではよく会うし話もする。
 カウンター奥の机は空席なので、今は職員室にでもいるのだろう。そう言えば今日は職員会議だと担任がホームルームで言っていたような気もする。




 「今日は蔵書整理について意見を聞きたくて。他にもメンバー集めてるから、こっちで待っててくれると嬉しいんだけど」
 「いいよ。ソファ借りるから、オレが必要になったら起こして」
 エドワードはそう言ってカウンターを抜けてソファに寝転がった。日の光が強いのでカーテンを締めることも忘れない。その様子にシェスカが口を尖らせる。

 「また夜更かしですか、エドワード君」
 「……今返した本、読んじゃおうと思って」

 シェスカはため息をつくだけにした。どうせ自分が注意したところで生活を改める彼でもない。それよりは幼馴染か弟に制裁していただいたほうが幾分効果があるだろう。
 どちらももう少しで来るだろうし。
 シェスカは指を折って集まる人数を数える。副委員のラッセルと、入ったばかりで書記のフレッチャー。それにパソコンに詳しいウィンリィ。後はエドワードと同じでよく利用してくれているアルフォンス。

 別に正式に委員会として話し合いを持つわけではないから少人数でもこのメンバーなら十分だ。とは言え本来は委員会担当のファルマン先生がいればいいのだろうけれど、職員会議なら仕方がない。
 とりあえず今日の目標は意見交換程度にしておこう。
 シェスカはエドワードから返却された本を手に取り、返却手続きの作業を進めた。





 「こんにちは。委員長、遅くなってごめんなさい」
 「ホームルームが終わらなくて」
 遅くなったとは言いながらも、はじめに入ってきたのはフレッチャーだった。その後にアルフォンスが続く。二人は同じクラスで、とても仲がいい。
 「みんな来るまで奥で待ってて。あ、エドワード君寝てるから静かにね」
 シェスカに促され、フレッチャーは鞄を下ろす。一方、アルフォンスは僅かに顔を引きつらせた。

 もし今ここでこの間の朝のようになったらどうする。ああ、だから寝る場所は考えなきゃだめだって言ったのに。第一ボクはどっちでも弟だからいいけど、シェスカさんやフレッチャーを見て「誰?」って言い出さない保証もないし。いくら寝惚けていても有り得ない……。こうしてみると
変なこと口走っても「寝惚けていました」ですむことって案外少ないんだなあ。
 どうしたものかと思っているところに、再び部屋の扉が開く音がした。

 「急に部活で呼び出されちゃってさ、シェスカごめーん」
 「何だ、一番最後か」
 壁も仕切りもないので、カウンター内に足を踏み入れれば奥の様子が見える。ラッセルは弟とアルフォンスの姿に肩をすくめた。
 「部活抜けてきたの? ウィンリィ、無理言ってごめんね」
 「いーのいーの。ちょっと実験手伝ってただけだから」

 ウィンリィは夏用の制服の上に白衣を羽織ったままだった。この格好のまま校内を歩いたらそれなりに目立つだろうが、彼女は気にしていないようだった。普段から着慣れている人はそれほど奇異に思わないのかもしれない。
 奥のソファを見て、ウィンリィが面白いものを見つけた顔をする。
 「なーにー。エド寝てるの? よし、ここはあたしの出番ね」
 にわかに片腕をまくり出す。エドワードを叩き起こす気満々のウィンリィを止めることはできないだろう。アルフォンスは額を押さえて呻いた。こうなったら通常通りに起きてくれることを祈るしかない。

 アルフォンスとフレッチャー、ラッセルは揃って両耳を手で塞いだ。

 「エードー! 起ーきーなーさーい!!」
 大音量を耳に叩き込まれたエドワードは、飛び起きることもなく小さく唸って目を開けた。すっかり慣れてしまって、この方法はあまり効果がなくなってきている。当然目覚まし時計で起きることはなく、あの音量で目を覚ませていたのは小学校に入る以前まで遡ってしまう。



 「……ん? ウィンリィ何その格好」
 次第に覚醒するエドワードの表情に、アルフォンスが眉を寄せる。
 「ああ、部活抜けてきたの。別にあたしがいなくたってできるのに、実験中だけでもいてくれって」
 「お前何言って……」
 「兄さん!」
 アルフォンスの声に弾かれたように、エドワードがはっとする。周りを見回して大きく息をつくと、ほどけかけている髪を結び直した。

 「あー、メンバー揃ったのか。蔵書整理の話し合いだったな。で、委員でもなく図書室にも縁がないようなウィンリィまで呼ばれてるわけ?」
 エドワードは首を傾げる。
 表情が軽い。大丈夫、いつもの兄に戻っている。
 
アルフォンスは自分を取り戻した兄に胸をなでおろした。





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