いつの日も笑顔で  ライブラリー 03




 ウィンリィは部活に、シェスカは再びカウンター業務に戻り、エルリックとトリンガム両兄弟は途中まで揃って下校となり、そして別れた。



 「兄さん、寝る場所考えてって言ったでしょ」
 ボクどうしようかと思った。
 話題が途切れたところでアルフォンスが不意に口にし、エドワードは驚いた素振りを見せた。
 「やっぱ気付いてたのか」
 「……だって表情が違う。兄さんじゃない『兄さん』は、ちょっと、こう……目つきが悪いっていうか。ぴりぴりしてる感じがする」

 「お前、本当にオレの言ってること信じてくれるんだな」
 何となく不安になることがある。度々夢と現実の区別がつかなくなる自分は、本当にまともなのか。
 結末の知れない夢物語に、自分がどこに向かっているのか推測すらできない別物語に、地に足が着いていないような心もとなさがある。

 「ボクはね、別にフィクションでも構わないよ。兄さんが無意識でも意識的でも作っただけの話でも。でも、ボクの兄さんと兄さんが話す『エドワード・エルリック』は違う人みたいに思う。だからボクは似ていても違う人のように接するよ」
 「オレもたまに自分で作った話なんじゃないかって思う時がある。虚言癖なのかなって」

 「もしそうだとしても、誰かを困らせているわけじゃないから問題じゃないよ。それに、ボクら思春期だもの。これだって今だけかもしれないじゃない」
 話を聞くのは嫌いじゃないもの。
 アルフォンスはそう言って笑った。
 だんだん日が長くなってきていて、しかも今日は放課後をほとんど潰さずに家路に着いた。夕焼けにはまだまだ余裕がある日に照らされて、その笑顔は輝いて見えた。





 「ボクそっくりの弟がいて、牛乳は嫌いだけどシチューは好き。ウィンリィもやっぱり幼馴染。『錬金術』っていうことができて、その国家資格を持っている。右腕と左足がオートメイルっていう義肢。それに鎧のボクと旅をしている」
 こんなところ? とアルフォンスが首を傾げてくる。父母については触れないようにしてくれているらしい。

 「そうだな。あとはあんまり覚えてない。最近は青い服をした人がやたらと目に付くんだけど、顔までは分からないし。何か変わった呼び方をされてたような気がするんだけど」
 「固有名詞っていうと、「リゼンブール」「イーストシティ」「ダブリス」。地名ばっかりだね。名前は同じだし」

 アルフォンスはこの件について興味を持ってくれ、エドワードの話をよく聞いてくれる。エドワードが口にした夢の中の言葉を逐一ノートに記録しているのだが、部屋が別であることも手伝って、当のエドワードは知らない。

 「名前は同じでも呼び方が違うと困るんだよな。この間肉屋のイズミさんに「せんせい」とか言っちゃっただろ。いくら小さい頃から知られてるっていっても、何か習ったこともないし、めちゃくちゃ恥ずかしかった」
 「イズミさんは別に気にしてるふうじゃなかったよ。兄さんが一人で悶絶してただけで」

 その出来事はすでにアルフォンスのノートに記録されている。おそらく夢物語の中でイズミさんと交流があるのだろうけれど、どういう関係なのかはエドワード自身分かっていないようなので、特筆することもない。



 「あんまり心配なら、父さん達に相談するって方法もあるよ。もしくは病院とか」
 「母さんに心配かけたくない。病院ってどこの? いたって健康なのに」
 ゆっくりと歩いていたとは言え、いずれ家に着く。屋根が見えてきたところでエドワードは一度立ち止まった。

 「大きいところなら精神科? 心療内科?」
 「却下」
 「即座に否定しないで。お医者さんならなにか分かるかもしれないじゃない。それに兄さんが辛いならって話だよ。今のところボクは無理にどうこうするつもりはないよ」

 今日は夕飯作る手伝いでもしようとアルフォンスがエドワードの足を促す。このままここに突っ立っていたって仕方がない。
 「市内にはクリニックも何件かあるし」
 「アールー」
 「ごめんごめん。ほら、「ただいま」だよ」

 アルフォンスがドアノブを握って、ゆっくりと回す。
 「母さん、ただいまー」
 「た、ただいま」
 二人の声を聞いてキッチンから顔をのぞかせたトリシャが、エプロンで手を拭いながら出迎えた。
 「エド、アル、おかえりなさい」

 早かったのねと言うトリシャに、アルフォンスがだから今日は何か手伝うよと申し出る。
 トリシャはどういう風の吹き回しかと笑いながらも、その申し出を快く受け入れた。





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