パパー、と満面の笑みで駆け寄ってきた少女は、隣りにいた上司の親友に抱き上げられた。

 愛してるよー  今日もかわいいでちゅねー  オレの天使(エンジェル)ー

 と、聞いてるこっちが恥ずかしくなるセリフを叫ぶ。
 まだ幼い少女は頬擦りされて、「おヒゲがくすぐったい」とそれを押しのけようとする。
 後から歩いてきた奥さんが笑う。

 世界一、幸せな家族。





 誰のせい





 エリシアはグレイシアと花飾りを作ろうと花の中にいる。
 中央司令部から程近い公園で、ヒューズとエドワードは木でできた簡素なベンチに座って二人を眺めていた。
 先程からエドワードは黙り込んでしまい、ヒューズはどうしたものかと考えていた。
 この子供を一番よく知っているだろう親友は、はるか遠くのイーストシティにいる。


 「中佐ってさ、いい父親だよな」
 唐突に呟かれた言葉の意図が分からなかったが、「おうよ」と明るく答えてみる。
 「エリシアちゃんもかわいいしな」
 「もちろんだ」と笑ってみる。

 「グレイシアさんとエリシアちゃん。……奥さんと子供って大事?」
 この子供は、まだ子供なのに。
 「ああ、大事だ」と頷いた。


 「おんなじ父親なのに、なんでこんなに違うんだろ」
 諦めたように呟いて、ベンチの背もたれに首を預けて仰いだ姿は、拗ねているようで、寂しげだった。
 一番いて欲しい、いるべき時に影もなかった父親、というもの。
 捨てられた、という感覚でいるのだろう。それが真実が偽りか、確かめることも出来ないままで。

 常に大人ぶっているこの子供が時折ひどく幼く見えるのは、そういう不安定さを抱え込んでいるからなのかもしれない。

 自分の親を「あいつ」としか呼べなくなった子供。
 自分の親を「父さん」と呼べない子供。


 今度会ったら絶対ぶん殴ってやる。
 そう拳を握り締めながらも、顔も覚えていられなかったらどうしよう、とさえ思っているかもしれない。
 そんな様子はおくびにも出さないけれど。


 「エドの活躍は国中に知れ渡ってるからなあ」
 会いたくなって捜してるかも。
 そう言うと、子供は気色悪い、とそっぽを向いてしまった。





 何か一つでも、どこか少しでも違っていたら、この子供と軍人達の運命が交わることはなかったのに。
 ヒューズは複雑な気分で、暖かい日の光が子供の髪をきらめかせるのを眺めた。





END.