最近、自分はものすごく情けないと思う。
 勝手にイラついて八つ当たりしたり、突然不安になって泣きついたり。
 いくら思春期だって言ったって、おかしすぎるだろうってくらい。
 ほんとに。もうどうしていいか分からない。

 厄介なのは、この感情の起伏を自分でコントロールできないこと。





 揺動時期





 この頃は周りも慣れてきて、やっと構わないでくれるようになった。
 その時その時、慰めてくれたり止めてくれたりするのはありがたいのだけれども、いちいち付き合ってもらうのは心苦しい。嫌な思いもすることになるし。


 イラつくと、どうしようもなくなる。何にイラついているのかも分からなくなる。ちょっとしたことで手を出しかけて、なだめられて何とか留まらせてもらったこともある。
 わざわざ声をかけてくれる人にさえ怒鳴ってしまうし、それでまた自己嫌悪地獄にまっ逆さま。

 何でもないのに泣きたくなる時もある。特に何を言われたわけでも、何をされたわけでもないのに悲しくなる。

 血の繋がりしかない男のことを思い出して、あいつが家を出て行きさえしなかったらとか。そうしたら母さんは泣かずにすんだかもしれないのにとか。でも、そうしたらあの人と出会えなかったんだとか。いろいろ。



 誰でもいいから責任を転嫁して、誰でもいいからすがりたくて、誰でもいいから頼りたくなっている弱い自分がいる。
 そんな聞き分けのない幼い子供のような自分はもう捨てたはずなのに、今になって内から生まれてくる。

 バカみたいだ。

 自分でどうしようもなくなりそうだな、と気付いた時は書庫にこもる。
 ここなら誰もこない。それにここにいれば、誰も近付けたくない、近付いて欲しくないということを弟は分かってくれるから。
 読書に没頭して、何もかもリセットしようとして。でもそんなことはできるはずがないから、たまに一人で泣いて。
 泣いてすっきりした時は書庫から出て、弟とみんなに謝りに行く。

 泣いてもどうにもならない時は、そのまま書庫にこもったまま。
 そうなってしまったら、もうどうしようもない。自分でも動揺するくらいどうしようもなくなる。
 何も食べたくないし、眠くもならない。暗くなっても部屋から出るつもりにならなくて、何度声をかけられても帰り支度もしなくて、結局あの人が叱りに来てくれる。

 一番迷惑をかけている人で、大嫌いだけど大好きな人。

 あの人はそっと部屋に入ってくると、迷わず近付いてきて、顔を覗き込んでくる。
 情けないし恥ずかしいから目をそらすのに、わざわざ手を添えて涙の跡を拭ってくれる。泣いていたことを知られるのさえ、嫌で嫌でたまらないのに。

 その後は容赦がない。
 あの人は優しい言葉はくれない。
 ずるいと思う。甘すぎると思う。優しすぎると思う。
 いっそ傷つけてくれたら、とても安心して放り出せるのに。





 きっとあの人のことはこの先絶対に裏切れないし、そういう気持ちにもなれないし、それはすごく幸せだけれど辛いことで、酷いことで。
 裏切ることであの人やあの人の守りたいもの全てを失わずにすむかもしれないのに。
 裏切れないことであの人もあの人の守りたいもの全てを永遠に失ってしまうかもしれないのに。

 せめてあの人の役に立てればいいのに。
 弟との約束を果たせたら、あの人の盾になりたい。あの人のためらなどんな汚いことでもできそうだし、どんな惨めな最期でもいいと思う。何だったら焼かれてもいいし、嬲り殺しでも、『暁に祈る』でもいい。
 そういうふうに思える人がいることがすごいことだと思う。

 でも、それをさせてくれないのがあの人。

 あの人にとって、自分は駒にもなれない子供。
 それを知らしめられることは落ち込む理由の一つ。
 自暴自棄になるのも許して欲しい。役に立ちたいのに自分のことで手一杯で、どんなに背伸びしてもあの人と同じフィールドで戦うことは難しい。

 コントロールできない感情の高低は、ほとんどがあの人に関すること。
 自分の力はあの人のためにならないからと落ち込んで、存在だけであの人を支えられるみんながうらやましくてイラつく。
 もう、どうしろっていうの。どうしようもないよ。

 あの人にも、こんな時があったのだろうか。






END.

 『暁に祈る』↓(反転)

 
ロシア辺りで、旧日本軍が行った拷問(というか最早処刑法)。
 散々暴行した後、生えている木に縛りつけて極寒の中放置。朝日が照ってくる頃には首だけを垂れて死亡していたりする。その姿が暁に向かって祈りを捧げているように見えることから、そう呼ばれていた。