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ソファに寝そべって天井を見上げる。 そして、目を閉じる。 足を肘掛に。両手を組んで。 懇願するように。 まるで、敬虔な信者のように。
Agnus Dei ――アニュス‐デイ 「神の子羊」の意。キリストの贖罪的称号。etc.
「何をしているんだい?」
突然振ってきた声に、ゆっくりと目を開ける。 東方司令部。 司令官。 階級は大佐。 オレを引き上げてくれた人。 道を示してくれた人。 唯一……怒ってくれた人。
「お祈り」 答えた途端、眉を寄せられる。 「君は無神論者ではなかったか?」 「神様に祈ってるわけじゃない」 どこかぼんやりとした調子で答える。 仰向けのまま、見下ろす彼を通り越して、天井のそのまた遠くを眺める。 「では、誰に何を祈るのかな?」 大佐がおどけるように言って、机に向かう。椅子に腰掛けた音がした。
誰もいない執務室は唯一祈れる場所。 軍の司令部という意味から言っても、実に都合がよく、利にかなった場所。 アルの前では祈れない。この根本に、アルがいるから。
祈ると、安心する。 自分の価値を確かめられたようで。 自分の忘れてはいけないことをしっかりと刻み付けることができて。
また、目を閉じる。 「内緒」 呆れるように吐いたため息が聞こえた。 秘密にしておく理由はないけれど、大佐はきっと困るから。 どうしようもないことをいつまでも引きずっている子供は、荷物になって捨てたくなるから。 ……オレはまだ、捨てられたくないから。 けれども口に出してしまうのは、大佐の機嫌を悪くすること。
「なあ、大佐」 「何だね」 静寂が、心地よい。 ぶち壊すのはもったいないくらい。
「オレが邪魔になったら、迷うなよ。迷う前に切り捨てるなり、壊すなりしろ。利用できるなら、犬にでも食わせろ」
ペンが動いていた音が止まる。 「……なぜ、そういうことを口にする」 低い声。やっぱり怒っている。 ここ最近じゃ一番くらい。 「オレは、ホークアイ中尉やハボック少尉達とは違う。あんたを慕うとか、信じるとかでここにいるわけじゃない。オレとあんたの関係は、取引みたいなもんしかないんだよ」 「殴られたいのか?」 妙に近いところから声がして、目を開ける。 いつの間にか椅子を離れて、また顔を覗き込んでいた。 冷静に見えて、ものすごく怒っているのは怖い。
「出て行けって言えばいいじゃん」 「そうしたら君はまた溜め込むだろう」 君が言うのを止めたら、私は怒ることもできない。 そう言っている間も、表情は変わらない。一番最初に会った時くらい怖い。
「あんた、勘違いしてるよ」 後々取り返しのつかないことになるよりは、今傷を作っておいた方がいい。 「大事になんかしなくていいんだって。捨て殺しにしていいんだって。だって」 ああ、ごめんなさい。 だけど、本当のことだから。
「だってオレは、いつだってあんたを選べないから」
大佐は選べない。 オレの一番は、いつだって、どんな状況だって、アルだから。
「そんなことは承知している」 やっぱり怒ったまま言う大佐を見上げていると、泣きたかった。 けれども、泣かせてくれるほど優しくもない。 それでも構わない。 優しくされたら、甘えてしまう。
ごめんなさい。 傷つけることを言って。 でも、優しさはあなたの弱みにもなりうるから。
こんな場所じゃ、隙があったら付けこまれる。 弱みを見せたら潰される。 どうか、オレはあなたの弱みになりませんように。
オレはいつだって、あなたの捨て駒になりたい。 あなたを選べない代わりに。
どうか。かみさま。
END. |