くろす





 「オレ達ってさぁ。結構対等な関係……?」
 「なぜそこで疑問符がつくのかね」

 昼休みのために人気のない執務室で、子供はいつものソファに寝転がり、大人もまたいつもの椅子に座って食後のコーヒーを飲んでいた。

 「だってさ、対等ってんじゃないだろ。何かさ。『対当』でもないし」
 「上司にこんな口の利き方をしておいてよくそんなことが言えるな」
 「そういうことじゃないんだよ。何ていうか……」

 次の言葉が出てくるまで、しばらくの時間を要した。

 「……そう、ずっとこのままじゃないだろ。みんな移動しているのに、同じ幅だけ移動できるはずない」
 「移動? 思春期の哲学かね」
 「違ぇよ。精神的な感じでって意味」

 「君もまた随分と難しいことを考えているものだね」
 「二次元ならさ、平行ならいいのにと思うんだ」
 「今のポジションから一ミリも近付けないじゃないか」
 つまらんよ。
 「いいじゃん」
 これ以上遠ざかることないし。



 「そうかな。……私の人生が直線に例えられるとすれば、君との出会いは運命の交わりのように思えるよ」
 何気なく口にした大人に、子供が眉を寄せつつ視線を向ける。
 「それって交差ってこと?」
 「まぁ、そうだな」
 その言葉に、子供が飛び起きる。

 「今の撤回しろよ。交差なんてやだ。今すぐ取り消せ」
 その言い様がいつもとは違っていて、酷く不安げで焦っていたものだから、大人は少し驚いた。
 「分かった、交差とは思わないよ」

 子供は目に分かるほど安心したらしく、息をついた。

 「なぜ交差では駄目なんだい?」
 「だって交差は一点でしか交われないじゃん。後はただひたすら離れて行くだけだから」

 ものすごく真剣な表情で答えた子供に、大人はその通りだと感心した。





END.