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ノブに手をかけようとした時、先に内側から小さい者が飛び出してきた。 それが何なのか瞬時に理解して、ヒューズは呼び止めようとしたが、当の子供は腕をすり抜けてどこかへ行ってしまった。
おやごころ
「お前なぁ。少しは大目に見てやれよ。ほい、頼まれてたヤツ」 ヒューズが差し出した封筒に手を伸ばす。 「これに関して礼は言うが、非難される言われはない」 マスタングはいつも通りの何を考えているかよく分からない表情できっぱりと言った。その態度がかちんときた。
「エドが何をしたんだ。報告書が遅れたのか? 街で騒動でも起こしたのか? それくらいかわいげがあっていいじゃないか。だいたいあの子はまだ十……」 鋭い眼光に射抜かれて、ヒューズは口を閉ざした。
「それは言い訳にならない」 「言い訳ってなぁ……」 「お前と私のやり方は違う。彼の見方も違う。彼に対する立ち位置も違う」 そう言いつつも、どこかやり切れなさを含んでいるようにも見える。
「でもな、これじゃあ信頼関係築けないだろう」 その言葉に、マスタングは少しの驚きを表した。 それに気付かなかったためのものなのか、そんなものは必要ないというものなのか、あるいは別の理由なのか、ヒューズは判断しかねた。
「信頼関係? 私にはそんなものを求めてはいないよ。あの子は」 あの子という言葉を使ったために、彼がこの偏った世界にいる中では酷く幼いことを改めて実感させられる。 「友情、親愛、甘やかし、同情。それは私以外の誰かが担えばいい。差し当たり、お前は父親といったところか」 マスタングが自嘲気味に薄く笑う。
「私はね、彼を叱れる人間でいたいのだよ。最後の最後、ぎりぎりの時までね。鋼のの生い立ちも罪も背負った罰も、全ての発端である純粋さも何もかもを知っている。そして私は錬金術師だ。だからこそできる役で、何か一つでも欠けていればできなかった役だ」 確かにそうだろう。錬金術師ではないヒューズはおそらく人体錬成の禁忌をも、真に理解することはできない。
「だから私はこのポジションを維持し続けなければならない。それは鋼の自身が望んでいることだし、確実に彼のためになると私も思う」 「要求されてるからそれに応えているだけだ、と?」 生真面目な顔でマスタングが頷くのを見て、ヒューズはくつくつと笑い出し、立ち上がった。
ヒューズの行動に、マスタングはあからさまに眉を寄せる。 「お前さんの考えはよーく分かった。これからは口を出さない」 これだけを聞けば物分かりのいいように思えるが、にやついた顔では何の裏があるのかと勘ぐっても仕方がないだろう。 「ご希望通り、こっちは兄弟をとことん愛してやろうじゃないか。でもな、それは父親代わりじゃない。俺の役じゃないからな」 退室の準備を整える。それが逃走に備えたものだと、誰が気付けたか。
「いつの時代だって、子供を『叱る』のは親心からさ」
予想外のセリフに絶句したマスタングを見ることもなく、ヒューズは一目散に逃げ出した。 てっきり何か怒鳴り返されたり、最悪髪でも焦がされるかと思ったが、どれも追いかけてはこなかった。 それを少しだけ不審に思いながらも、ヒューズは少年を探すために、走る速度を上げた。
END. |