「紹介する。彼は私が推挙した錬金術師だ。これから長い付き合いになるだろう。とりあえず合格が発表されるまでの一週間、イーストシティに滞在することになった。そのつもりで」

 「はじめまして。エドワード・エルリックです」

 よろしくお願いしますも、子供らしいはにかんだ笑顔も、緊張した面持ちも、何一つとしてなかった。
 短い自己紹介の後の沈黙。

 「「「「ええぇーーー!??」」」」
 悲鳴とも雄たけびともつかぬ奇声と、口に含んだ紅茶が一気に噴き出された。





 A WEEK  05
 ――ひととき むりをしていたと 今 思う
                           銀色夏生 『葉っぱ』より引用





 「だってまだガキ……じゃない。こんな子供が」
 「マジなんスか? てっきり大佐の隠し子かと……」
 「……試験って、もう受けてきたんですよね?」
 「長い付き合い……ですか」
 それぞれに言いたいことを言ったのを確認して、ロイが答える。
 リザはエドワードに関する一切の説明をロイに任せている。というか、自分が口を出すことではないと感じている。
 エドワードは無言で紅茶を口にした。


 「子供だろうが何だろうが、彼は推挙する人物に足ると私が判断したまでだ。彼も資格取得を望んだ。試験は受けた。当然だろう。合格の暁には私が後見を務める。長い付き合い、だろう? ……ハボック、何だその隠し子、とは」
 失敬な、とロイが言う。

 一通りメンバーの紹介が終わったところで、ロイが地図を取り出した。それをエドワードに預ける。
 「イーストシティと東方司令部内の地図と見取り図だ。ここを拠点に動くことになるだろうから、頭に入れておきたまえ」
 「エドワード君。夕食まで時間があるから休みなさい。大佐の名義で仮眠室を空けておいたから。今はみんな忙しいから誰もいないでしょうし、話をしておいたから心配しなくていいわよ」
 リザの言葉で一礼と共に司令室を出て行ったエドワードを、何とも言えない目でハボック達が見送った。





 「何だってまた、あんな子供が『軍の狗』になろうとしてんですか?」
 当人がいなくなった部屋で、ブレダが言った。口にしたのはブレダだが、皆が思っていたことなのだろう、室内が静かになる。
 何の詳しい説明もなしに納得してもらおうとはロイも思っていない。が、全てを話すわけにもいかない。

 書類にサインをしながら、時々思い出したようにぽつりぽつりと話した。
 「彼は本が好きなようだな。いや、必要性があるだけかもしれないが。あの知識と集中力は誰にも引けを取らない」
 「そこらの軍人よりよほど強いし、優れているよ」
 「彼には目的があるのだよ。『狗』になるのは達成するための手段に過ぎない」
 「……忘れるところだった。さっきも言った通り彼は錬金術師だからな。普通の子供だと軽んじたり、禁句を口にすると酷いめに遭うぞ」
 「……信じられないのは分かるが、私の部下ならば彼を……よく見ていてくれ」
 そのうち彼のほうが何か話してくれるかもしれないしな、と。


 「随分気に入った子なんですね」
 フュリーが柔らかく、優しく言った。それに続く。
 「分かりましたよ。大佐が受かるって言ったら受かるんでしょうね」
 「しっかし、まるでガキ大将みたいな瞳してたなぁ。さすが大佐が推しただけはあるっスよ。イイ顔してます」
 「歓迎会でもやりましょうか。あ、合格が決まってからの方がいいでしょうか」
 「利発そうな子でしたね。僕、仲良くなれればいいんですが」
 戸惑いはやはり隠せない。だが、思わぬ妙客を受け入れようとしているのは分かる。ロイを信じているから、ロイが決断したことを理解しようとする。
 リザは安心にほっと息をついた。
 東方司令部内の人間がこのメンバーだけでないのが不安ではあったが。





 エドワードはどさりとベッドに腰を下ろして、そのまま寝転んだ。
 疲れた。
 ここ数日、十分な睡眠も摂っていないし、気を張り詰めっぱなしだったので精神的にもキツかった。
 ふと、左手に気付いて目の前に持ち上げた。
 ホークアイ中尉が手当てしてくれた左手は傷口を消毒され、ガーゼで押さえられて白い包帯が巻かれている。手首には湿布を貼ってくれた。

 仮眠室にはやっぱり誰もいなくて、エドワードは少し安心した。廊下でも誰とも会わなかった。実際には見つからないように移動したのだが……。
 さっき五時の鐘が鳴った。

 横になっているとすぐに睡魔が襲ってきた。抵抗を諦めて赤いコートを脱ぐと、髪を解いていそいそとベッドに潜り込んで目を閉じた。
 どうして大佐が左手の怪我に気付いたのか、考える暇もなく眠りについた。


 



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