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遅くなった夕食は、人の少ない軍の食堂で食べた。 お腹が空いていないわけではなかったが、空いているわけでもなかった。 エドワードの隣りにはリザが座った。
A
WEEK 06 ――タロットカードは最悪だった。あきらめた方がいいと言われた。 銀色夏生 『あの空は夏の中』より引用
エドワードは牛から分泌される白濁色の汁を出されたらどうしようかと、内心かなりびくびくしていたが、用意されたのはお茶でほっとした。
「リゼンブールから来たんですってね。どんなところなんですか?」 さりげなく会話の糸口を見つけようと、フュリーが尋ねる。 「すっげー田舎。何もないよ」 エドワードは手に取ったパンをちぎりながら答える。 答えはするが、到底目上の者に対する口の利き方ではないし、簡潔で取り付くシマもない。 それでもにこやかでいるのはフュリーだからなのかもしれない。
司令部にいるはずのない子供が大人と(しかも大佐までいる)席を同じくして食事をしているという一種異様な光景を、食堂を出て行く軍人がちらりちらりと不躾(ぶしつけ)に見ていく。 それをちっとも気にしない様子で、子供は食を進めていった。
「ところで、明日から誰かに付いてもらおうと思っているのだがね」 執務室に戻ったところで、食後のコーヒーをすすりながらロイが言った。 時刻は九時を過ぎたところだ。 エドワードは今夜は仮眠室で休むことになってしたし、司令部のメンバーはほとんど徹夜で仕事を進めることになっている。リザの決定に逆らう者などいるはずがなかった。
「必要ない」 エドワードが冷たく言った。大佐に対しての態度が、他に対してよりどこか挑むような硬いものであることに周りはだんだん気付いていた。
「行きたい場所があれば行って構わない」 「図書館以外はない」 (やっぱり本好きなのか?) 「あのかわいい幼なじみへ、連絡くらい入れたまえよ」 「大佐じゃあるまいし」 (大佐の性質分かってんのか!) 「中尉の許しさえもらえれば、私が付き合ってもいいのだがね」 「大佐に世話されようとは思ってない」 (・・・・・・・・・) 「・・・・・・・・・」
エドワードの厳しい言葉も、無視して会話を成り立たせるには限界があったらしい。 少なからずショックを隠せないロイ。 それを子供らしからぬ落ち着き払った瞳で一瞥して、部屋を出て行く。
「今日はどうもありがとうございました。おやすみなさい」
どう聞いても棒読み以外の何ものでもなかった。 パタンと閉まった扉に、大人達は唖然とする。
「中尉、私は嫌われているのかね?」 無言を返すことにしたリザ以外は、気付いてなかったのかよ! というツッコミを押し留める。 「どうも子供っぽくねぇよなぁ。まぁ、受験するくらいなんだから当然といやぁ当然なんでしょうかね」 「慣れていないのもあるかもしれないわね」 ブレダが言う。頭の回転が速いだけに、冷静に分析する。それにリザが続ける。
「そーゆーお年頃なんでしょ。自分一人で何でもできると思ってるし、弱いトコ知られたくないから意地張って強がる。いいっスねぇ、青春真っ盛り。反抗期っても言えますね」 余裕の見えるハボックの言葉に、ロイがほお、と感心する。 そして中尉の視線に促され、すぐに書類に目を落とした。 「…ハボック。君は子供の扱いを心得ているようだな」 「ま、田舎じゃみんな兄弟みたいなもんスから。年下の面倒見はよくやらされましたよ」
言ってから後悔した。すごく、とても、何で言ってしまったんだろうと、後悔した。 後から悔やんだ。 上司がにたりと笑っていた。逆らえば軍法会議にかけるぞ、と言外に伝わってくる。 こうなってしまってからはリザ、ブレダ、ファルマン、フュリーも健闘を祈る、と無責任に肩を叩いてやることしかできない。
「ジャン・ハボック少尉。明日からエドワード・エルリックの護衛を命じる」 反論の機会も与えずに、上司は再びペンを持った手を動かし始めた。
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