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四日目。 エドワードは昨日図書館に行けなかったので、朝食を済ませるとハボックを伴なって早々に司令部を出た。
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WEEK 12 ――いつもだったら 黙って通りすぎてた いつもと違うことを なぜしたのかわからない 銀色夏生 『バイバイ またね』より引用
「あれ、もう戻るのか?」 正午を控えて、本を借りたエドワードが少ない荷物をまとめ始めたのに気付いて、ハボックが尋ねた。 「うん、面白そうなの見つけたんだ。禁帯出じゃなくて助かった」 見ると、古く分厚い書籍を抱えている。エドワードがうずうずした様子でハボックを急かす。 「いつも使ってる手帳忘れてきちゃったし、オレが読み終わるまでここにいたら、多分少尉明日まで帰れないよ」 エドワードはさっさとエントランスに向かう。 ハボックは昼食は食堂で食えるかな、と見当違いに考えた。
「なあ、昼飯食いにいかねぇ?」 ハボックの誘いに、エドワードは逡巡しつつも頷いた。 初日に夕食を食べた時に他の軍人の態度があまりにも不躾だったので、リザの配慮で司令部内で食事をとる時は寮の部屋を使うことにしていた。やはり子供がこんな所にいれば目立つのだ。
食堂はピークを少し過ぎたらしく、人影はまばらだった。ハボックが二人分を受け取って席を探すと、声がかかった。 「ハボ!」 手を揚げたのはブレダだった。ファルマンとフュリーも窓際の一角に座っていた。 「お前ら今昼飯か?」 ハボックが尋ねると、そうだと言う。ちょうど食べ始まったところで、トレー上のメニューはほとんど手が付けられていない。 「今やっと飯。別に忙しかったわけじゃないんだけどな……」 ブレダの説明が遮られる。黄色い声がした方に目を向ける。
「あの子、あの子」 「やだー かわいい!」 「ほんとだったんだ、ショック」 軍服をまとった若い女性達だった。控えめに手を振ってきたが、エドワードがきょとんとしていると三、四人が寄って来た。
「君、一昨日くらいにここで夕食食べてた子でしょ?」 「まだいたんだ。ね、名前は?」 きゃあきゃあとエドワードに話しかけ、その勢いにハボック達も押されてしまう。 エドワードは軍の縦割り社会を疑った。
「ハボック少尉、あの話本当なんですか?」 「あの話?」 ハボックは気安いのか、女性の一人が尋ねた。 「あの……その、マスタング大佐の」 「隠し子じゃないからな」 全てを言われる前に否定する。 乱闘未遂でエドワードが国家試験を受けた子供だということが広まっているかと思っていたのだが、まだ浸透してはいないらしい。やられた軍人も子供にやり込められたと公言できないからだろう。
「オレはエドワード。ここで少しお世話になってんの。明後日まではいるよ」 いつまでいるの? という問いにもエドワードは律儀に答えた。 「エドワード君、プリン食べない? これおいしいのよ」 「あたしも! これクッキーおやつにかってきたの。後で食べて」 「あ、時間っ。エドワード君、じゃあね」 「それでは失礼します」 嵐のように過ぎた女性達に、エドワードはほとんど強引に押し付けられたお菓子の袋を手に茫然としている。自分が今どこにいるのか分からなくなる。
「いいなー。大将は」 ハボックがじと、とエドワードを見る。 「みっともねぇ。いじけてんじゃねぇよ、ハボ」 そう言いながらも、ブレダもため息をついている。ファルマンもフュリーも似たようなものである。 常に彼女大募集な大人にとって、女性に囲まれているエドワードの姿は羨ましくないといえば嘘になる。上司が非常にモテるだけに、かなり切実な悩みだ。 そんな四人の軍人を見ると、エドワードは何を思ったか菓子袋のリボンを外し始めた。クッキーを取り出して、空になったそれぞれのトレーに乗せていく。
「………」 四人に二枚ずつ、最後に残った一枚をぱくりと食べた。もぐもぐと口を動かして、飲み込んだ。 「おいし。……それ、あげる」 「へ?」 「食えよ。美味いから」 「でも、エドワード君がもらった物ですし、うぐっ」 おどおどしているフュリーの口に、ハボックがクッキーを押し込んだ。そして自分の口にも放り入れる。 「くれるっていうんだからもらっとけって。お、美味い。やっぱ手作りはいいなあ」 ハボックがしみじみと言う。 「では、いただきます」 「サンキュ」 ファルマンとブレダも礼を言って一枚を食べた。
「大将。いい兄貴なんだなあ」 ん、とエドワードが首を傾げる。 「ちゃんと分けるって結構できないもんだからさ」 ああ、と頷くブレダ達。エドワードは若干赤面してそっぽを向く。 「……弟とか、幼馴染とよく取り合いになったりしたから。同じだったら喧嘩にならないだろ」 照れ隠しの言い訳は珍しくて、微笑ましい。このところ、エドワードはよく表情を変えるようになった。本当はもっと子供らしくある年齢なのだ。
この不可思議極まりない子供から信頼を得始められているのだろうか、と四人の軍人は同じことを考えていた。
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