東方司令部から図書館までは徒歩で約二十分。
 子供の足とはいえ、走れば十五分で着く。

 肝心なのはあの子供が普通よりも運動能力が高くて、おそらくは走っていっただろうということ。





 A WEEK  15
 ――私はいつもあの人の指示にしたがい おとなしく言うことを聞く
    協力し 助け合い 待ち続ける私
                           銀色夏生 『葉っぱ』より引用





 エドワードの存在は不確定で扱いにくい。
 国家錬金術師の試験を受けたとはいえ、まだ合格でも不合格でもない。加えて、客人とするにはあまりにも幼すぎる。

 預かり物のような子供が一人いなくなったからといって、ロイ達にできるのは、個人的に捜すことだけだ。誘拐でもあるまいし、姿が見えないといってもたかだか一時間やそこらだ。

 部屋にいることに退屈した子供が抜け出したと考えられないこともない。しかし、子供というのがエドワードならば話は別だ。
 そんな幼稚な行いも、浅はかな考えもありえない。リザが心配したのはそのためだ。





 居所が分かればこちらのものだ。
 「……全く。どうせ図書館に行って、またついでだと本を読み耽っているんだろう」
 バカバカしさに、ため息が出る。
 「どうやら本を一冊抱えていたらしいっスけど」
 伝言を頼んだ女性が心配して、大変だったんです、とフュリーが言う。
 「僕らもそう思って、本が好きな子だから図書館にいるでしょうとフォローしておきました」


 一旦執務室に戻り、報告を聞いた。
 三時頃に司令部を出たのは確認済みだ。ファルマンが守衛に尋ねると、ここ数日ハボックと外出している子供が図書館に行くから通して欲しいと言ったらしい。通常ならば人の出入りは厳しく制限されているのだが、毎日のことで、顔見知りの子供ならば、と通したらしい。
 出掛けに持っていた本を預けていったのだ。返しに行くのではないかと守衛が尋ねると、借り物だから預かっていて欲しいと置いていった。
 やはり戻ってはおらず、ファルマンはとりあえずその本を受け取って執務室に戻ってきたのだ。その本は昨日、私が貸した物だった。


 図書館に向かったのなら、司令部内を捜してもいないわけだ。 
 「三時くらいなら、まだ雨も降っていませんでしたしね」
 いかほどか表情を和ませたリザの言葉を耳の端に、受話器を取って図書館に繋ぐよう交換手に言う。
 外は本降りになってきた。傘なしに帰ってくることは、いくらエドワードでも無理だろう。

 「エドワード君は本の虫ですから」
 「傘、持っていってあげないといけませんね」
 安堵を浮かべた面々が、冷めた紅茶をすすりながら言い合っている。
 こんな調子では、今日の仕事はもう手につかないだろう。というか、何と言って叱ろう。中尉に心配をかけた罰だ。
 「でも、大将にしてはやり口がズボラじゃねえ?」
 「バレる前に戻って来そうな気もするけどな」

 おどおどした様子で相手が館長だと名乗る。司令部の大佐が一体どうしたのだと、言外に相手がびくついているのが分かる。しかし、そんなことは構わない。
 子供を捜しているだけだと伝えると、館長は落ち着きを取り戻した。
 エドワードの特徴を挙げていく。子供が職員を訪ねなかったかと訊くと、しばらく待たされる。
 ほんの短い時間なのだろうが、とても長く感じる。
 そして、やっと返答が返ってくる。
 「はい、確かに。伝言を預かってきた、と。行儀のよい子でしたが、その子が何か?」
 「まだ館内にいると思うのだが、確認していただけないだろうか」



 「助かりました。では」
 受話器を置いたロイが疲れを取るように目元を押さえて、息を吐き出した。
 「大佐。エドワード君は?」
 「図書館に着いたのが三時十分過ぎ」
 「足速いな」
 ブレダが紅茶を片手に感心する。
 「伝言を伝えて、図書館を出たのが三時半過ぎ」

 「………」
 「は?」
 「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ」
 「図書館を出たんですか!?」
 一同が揃ってうろたえる。
 「どんなに遅くたって四時には司令部(ここ)に着いてなきゃおかしいじゃないっスか! だって今……」
 ロイが銀時計を取り出している。乱暴に頭を掻くと、パチンと時計の蓋を閉める。
 「一六四一」

 ロイは立ち上がるとコートを取り出してきて、羽織る。
 「大佐、どこへ」
 部屋を出て行こうとするロイを、リザが追う。
 「図書館から司令部までを捜してみる」



 「ハボック少尉、ファルマン准尉、フュリー曹長も来い。ブレダ少尉は執務室で待機。ホークアイ中尉は」
 「万が一に備えて医務室に」

 リザは気丈に承服した。





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