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ハボックやブレダ達は、次の日ようやくエドワードと対面した。
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WEEK 20 ――どこまでも果てしのない深みを見たようだった 信じていたものがすべて音をたててくずれていった 銀色夏生 『あの空は夏の中』より引用
リザが決裁が済んだ書類を届けに行こうと廊下へ出ると、エドワードがいた。たった今着いたのではないだろうことには気が付いた。 心持ち色の失った表情で、緊張していることは明らかだった。ドアをノックすることもできずに葛藤していたらしい。 リザはエドワードに目線を合わせた。
「いらっしゃい。私は居た方がいいかしら」 それは子供に対する態度に違いなかったけれど、エドワードは何も言わずに首を横に振った。 「だいじょうぶ」 そうして、入れ違いにエドワードは執務室へ足を踏み入れた。
扉を後ろ手で閉めると、エドワードはそのまま張り付くように立った。一番重厚な作りの机には誰もいなかった。書類が積んであるだけ。 気付いた四人の大人がそろって安堵を示し、笑みを向けた。それに戸惑いながら、エドワードは口を開いた。
「話が、あるんだけど」
エドワードのただならぬ雰囲気を感じながらも、フュリーは笑みを絶やさなかったし、ファルマンは誠実な態度を崩さなかった。 ブレダはソファを勧めたが、エドワードはその場を動かなかった。 わざと視線をそらすように少しうつむき加減で淡々と語る。
昨日は心配をかけてしまったこと。 自分の右腕と左足は東部の内乱で失い、今は機械鎧だということ。 ……それは知られたくなかったのだということ。
息を呑む気配を感じても、エドワードは口を閉ざさなかった。 一度止まってしまえば途中で打ち明けること自体をやめてしまいそうだった。 ただ、機械的に。報告するように。話しておく必要があるから話すだけ。そうした方が得だからそうするだけ。狗になるのと一緒。 そう思っていた。
「サンキュな」 ガシガシと頭を撫でられ、呆然とする。ブレダが苦々しく笑う。 「嫌なこと言わせた。俺らのせいだな」 それが内乱を指していることに気付きつつも、否定はしない。 「機械鎧は扱うのに並々ならぬ努力が要るってハボック少尉がね……」 フュリーが言いかけて、エドワードは立ち位置を変えなかったハボックを見上げた。 エドワードの金瞳に見つめられ、ハボックは不自然に明後日の方向を向く。そのまま息を吐き出す。
「あー悪ぃ」 ハボックが何に対して謝っているのか見当がつかず、エドワードは首を傾げた。 「その……俺さ、大将の機械鎧見たかも」 「……いつ」 「護衛の最初の日。俺が締め出された時、お前着替えてただろ。あん時は一瞬だったから全然気付かなかったんだけど、今考えると金属色って機械鎧だろ?」 もっと早く気付いていれば昨日のようなことは避けられたのに。 そう謝るハボックに、エドワードは何だか場違いなほど笑いがこみ上げてきた。
本当に、この人達はどうしようもないくらいに優しい。 この人達に対して、利益だとか損得だとか、そんなことは考えることはないのだ。そういう付き合いをするのはむしろ失礼だ。 ロイ・マスタングの腹心たる彼らは、信用に値する人間だと判断した。
「オレが言わなかったんだ。誰のせいでもないよ」 エドワードは肩をすくめて笑う。皆の前では初めて自然に笑った。
もうすぐ休憩だからと、フュリーが食器を取り出しながら言う。 「よかったらエドワード君のことをもっと話してくれないかな。マスタング大佐から伺ったことだけじゃよく分からなくて」 「そうそう。大将が錬金術に関して天才だとか、司令部に鎧が訪ねてきたら弟君だとか……」
「っ……なんで」 悲鳴のような声に、大人は一斉に振り返った。 エドワードは先程の笑みが嘘のように顔が強張って、真っ青だった。ふらついて後ずさると、背の扉にぶつかり、それに支えられるようにかろうじて立っている。 「おいっ、大しょ……」 「……何で知ってんの……」 気圧されながら、ハボックが答える。 「仕事の合間に大佐がぽつぽつ大将のことを教えてくれてたんだよ。大将は何にも喋んねぇだろうからって」 エドワードが他の顔ぶれも見回す。本当のことらしい。
あの人が。大佐が喋った。 アルのことを。知られた。あの人がばらした。他の人に。喋った。 アルは。アルはどうなる?
ずるずると座り込む。この状況にどうすればいいのか途方に暮れた。 「……どこまで、知ってるの」 エドワードが呆然と呟く。訊きたいことで、訊きたくないことだった。 「えっと、多分大体」 おずおずとした返答。 「信じるの?」 「大佐がおっしゃったことですから」
どうなってるの? これからどうなるの? だってあの人は言ったじゃないか。それなのに。どうすればいいの? アルは? アルは?
ぐるぐると思考が混乱していく。 「だって、」 「あの人が」 「あの人が言ったんだよ」
みっともなく鼻をすする。
「誰かにばれたら、アルを研究所送りにするって」
言葉にすると現実味が増した。 エドワードは弟を奪われる恐怖にとうとう泣き出した。
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