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口封じ。
ばたばたと何かが頬を伝っていくのを感じながら、それを一番最初に考えた。 アルのことを知っている人がいなくなれば、危険はなくなる。
けれども、そんなことできるはずない。
がたがた震えている自分に人殺しなんて無理だろう。 相手は四人だし。 それにここは司令部の中だし。 すぐに捕まって、そしたら国家資格どころじゃないし。 アルのことも世間中に知れ渡ってしまうだろうし。
そんなことだけじゃない。 この人達はあの人の大事な人で、優しい人で、戸惑いながらもこの五日間を一番近いところで過ごしてくれた人で。 でもぶち壊したのはあの人で。あの人が、喋った。どうなってるの?
A
WEEK 21 ――人は 誰か自分をすごく愛してくれる人がいるということによって 不安から すこし 救われるという気がする 銀色夏生 『君はおりこう みんな知らないけど』より引用
「ホークアイ中尉っ!」
エドワードのためにわざと窓口で談笑して時間を潰していたリザは、血相を変えて走ってくるハボックを咎めた。 「一体どうしたの」 「どうしたもこうしたも。それより大佐は?」 膝に手を付いて息を切らせているハボック。リザはきょとんとして答えた。 「エドワード君の試験結果を受け取りに行くって言っていたじゃない。朝の便で発ったからまだセントラルには着いていないと思うけれど……」
そうだ。大総統府から手紙がきていた。昨日の一件ですっかり忘れていた。 ハボックはあちゃーと額に手を当てた。何てタイミングが悪いんだ。 ふいにリザの表情が険しくなる。 「エドワード君は?」 「それが……手が付けられなくて。大佐が何か言ったらしいんですよ。弟がどうとか、研究所送りがどうとか」 眉を寄せたリザが駆け出す。 ハボックがその後を追いかけた。
一番手近な場所にいたのがブレダだったというだけだ。それだけの理由で、今身動きが取れない状態になっている。
「……お願い。言わないで」 それだけが聞き取れた。後はずっと何かを呟いてはいるのだが、泣き声に混じって何が何だか聞き取れない。 その間ブレダは左腕の痛みに耐えていた。 何せ掴んでいるのは機械鎧なのだ。痛いのだと訴えてみてもエドワードの耳には届いていないようだし、震え方を見れば尋常でない状態なのは明らかだった。 ブレダはハボックにホークアイを呼びに行くよう言った。 フュリーはおろおろするばかりだったし、ファルマンは説得を試みて無理だと思い知った。
執務室に足を踏み入れたリザは一瞬だけ動きを止め、そして瞬時に判断した。 エドワードの視線をこちらに向かせ、気をそらさせる。その間にブレダは腕を引き抜いた。機械鎧ならば骨を折るくらいは造作もないが、くるくると回してみて、青アザ一つで他は何ともなさそうだと判断した。
エドワードは泣きじゃくっているわけではなかったが顔は真っ青だった。 大人達は今まで見せられていた仮面の下を垣間見て呆然としていた。
すっかり神経が高ぶってしまっているエドワードをリザがなだめ、その間ハボック達は一歩も動けなかった。
「……たいさが、」 わずかに震えながら、どうしてあの人が喋ってしまったのかと問う。 「……いったのに」 根が生えてしまったように微動だにしない大人達を見据えて、けれども何も考えられない。知られてしまったのだ。 「アルは……どうなるの」
リザが意を決したように小さく息を吸い込み、そしてエドワードの顔を自身に向かせた。触れた頬は涙が流れたせいで冷たかった。 「これは私の推測にすぎないけれど、あなた『達』を守るためなの。きっと」 「この件に関しては私達は他言無用を約束するわ。決して口外しない。あなた達が秘密を暴かれる可能性はできる限り潰すし、諸々の理由は口裏を合わせる」 おそらくそれがロイの真意だと。 エドワードはゆるゆると視線をハボック達に向けた。 四人はそろって頷いた。
「アルフォンス君は研究所に送られるなんてことはないわ。あなたと二人でここを拠点に旅をする」 リザが微笑んでエドワードを抱き締め、ぽんぽんと背を軽く叩くと、ほっとしたように力が抜けた。 絶対に誰にも言わない。ならば弟のことも人体錬成のことも公にされずにすむ。 「……黙っててくれるの?」 エドワードの呟きに四人が笑う。 「なに、大将が最年少で合格したら大佐の株も上がる」 「そうすれば昇進も近付いて」 「我々の給料袋も少しは厚くなる」 「ま、お前さんを懐に入れるのはハイリスクかもしれないが、同時にハイリターンってことなんだよ」 頑張ってくれよ。 と半ば真剣に言われ、きょとんとしていたエドワードは氷が解けるような笑みを浮かべて頷いた。
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